二時間半かけてたどり着いた海水浴場は人人人で、圧倒されてしまった。砂浜は シートやパラソルで埋まっているし、少しでも志乃から目を離したらあっという間にはぐれてしまいそうなほどだった。
荷物はコインロッカーに預けて、上着とタオルだけを持ってその中を歩き、水際で足を浸した。

「海だ…」

「気持ちいね」

「うん」

最後にこうして海に来たのは、いつだったかな。 テレビで見るような南国の青く透き通った海水ではないし、白くてさらさらの砂浜でもない。それでもこんなにわくわくする。

レンタルした浮き輪でぷかぷかと波に揺られ、岩場から飛び込む地元の中学生らしい男の子に混ざってざぶざぶと飛び込む志乃を見守って。お昼には海の家でカレーライスとかき氷を食べた。

「まおちゃんたちも、楽しんでるかな」

「楽しんでるよ、きっと。写真いっぱい撮るんだーって張り切ってたから、明日は一日今日の話だよ」

「楽しみだね」

あ、そうだ、と思い出したように呟いた志乃は、お昼を食べるために一旦取りに行った鞄を探り、携帯を取り出してぱしゃりと僕を撮った。

「ふぇ」

間抜けな顔をしていたに違いない僕を、志乃はもう一度撮り、ヘラりと笑ってインカメラにした。画面に写る自分と志乃。うわ、月とすっぽん、と思った僕をよそに、志乃の指は何度か続けてシャッターボタンを押した。

「も、やめ」

「記念」

キスでもするんじゃないかってくらいに近い顔に、無駄にドキドキしてしまう。多少赤くなったって、日焼けの所為にしてしまえばいい。でも、この鼓動は隠せない。

「俺も明日まおちゃんに自慢するのー」

「……」

喧嘩しそうだな…

「あ、お土産に貝殻拾ってく!行こ!」

「へっ、あちょ…」

お世辞にもきれいな砂浜とは言えないけれど、たくさんの貝殻がそこにはあった。貝殻だけじゃなくてゴミも混ざっていたけれど、それでも健気にきれいな貝殻〜と探す志乃に付き合宇野は楽しかった。

「あ、これきれい」

「ほんとだ、そんなのあるんだ」

「まおちゃん喜ぶかな〜」

「喜ぶよ、絶対」

志乃が見つけたのは薄いピンク色の貝殻だった。
昼を過ぎて少しずつ人は減っていき、貝殻探しも苦じゃなかった僕らは、男子高校生らしからぬほどそれに没頭していた。志乃が「喉乾いたね、ジュース買ってくるから待ってて」と腰をあげるまで、完全に。

「あ、うん」

「ここ、動いちゃダメだよ?あ、それとも一緒にいく?はぐれたら大変だし」

「大丈夫だよ、ここで待ってる。鞄もここにあるし」

「絶対絶対動いちゃダメだよ?なんかあったら大きい声出してね、携帯もちゃんと持ってて」

「大丈夫だよ、ほらいってらっしゃい」

来たときほど、人でごった返しているわけじゃないし、探そうと思えば見つけられるだろう。それに、飲み物といってもすぐそこに海の家があって、その店先に自販機もある。すぐそこだ。

「ん、じゃあ買ってくるね」

ひらりと手を振って、僕は集めた貝殻をハンカチに包んで持ってきたランチバックの中へ入れた。これなら割れないだろうと。ついでに軽く手を拭いて携帯を開くと、母さんからメールが届いていた。

“ライオンさん”とだけ本文に書かれていて、添付写真はなぜかウサギをだっこしたまおだった。これ、絶対間違えて送ってる、と思わず笑いが漏れた。でも、まおの嬉しそうな顔に、こっちまで嬉しくなる。

「海も、楽しいよ」

それだけ打ち込み、ぱしゃりと目の前の海を写真に撮って送り返したところで、背後が少し賑やかなことに気づいた。


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