「…あの、志乃」

「なあに」

「…このサン ドイッチって…もしかして」

「俺の手作りだよ」

「ごふっ」

あり得ない。あり得ないあり得ないあり得ない。

「あ、デザートにカットパインもあるよ」

僕はこの学校の、不良の最高峰と呼ばれる男の手作りランチを食べてしまったのか。しかも、デザート?信じがたい、狂犬がカットパイン…

「音羽?…もしかして、パイナップル、嫌いだった?」

「あっ、えと、好き、だよ」

「じゃああとで食べようね」

そもそも、この喋り方。
僕はこういう物言いが志乃なのだ、と思うけれど…こんなだるだるでやわやわの雰囲気じゃ不良など勤まらない気がしてならない。まあそもそも“不良“の定義も分からないのだから結局何が正解で不正解なのかも分からないけれど。それでも、こんな感じでやっていけるものには思えない。

『バターン!!』

「志乃遥ぁぁ!!」

ご機嫌でサンドイッチを頬張る志乃を横目に、そんなことを考えていた矢先。僕と志乃しかいない屋上のドアが、乱暴に開かれた。僕の真横にいる“志乃”の名前を叫びながら。

「屋上でランチとは、随分と呑気な野郎だな、ああ?」

「……誰だっけ?」

坊主に近い短髪頭の、ゴリマッチョが僕らへと近づく。両耳に痛々しいほどのピアスがつけられていて、思わず眉を寄せてしまった。

「あ?なんだ、女といると思ったら男じゃねえか」

…でっかい…
僕の一歩前にしゃがみ込んできたその男。見たこと無い、ああ、もしかして一年生だろうか…と思ってみたが、もしかしなくても一年生だろう。志乃遥に喧嘩を売る同級生や先輩が、この学校にいるはずがないからだ。何も知らない、もしくは興味本意で志乃にこうして会いに来たのだろう。だから志乃も誰か分からなくて、まだ呑気にもぐもぐしているんだ。

「おい、なんとか言えよ」

なんて、僕がこの状況を整理してもまるで意味がない。だって僕は喧嘩なんてできないし、むしろ不良に目をつけられる可哀想な人間側なのだから。

「呑気にランチしてる暇があるとは、“白狼”も落ちぶれたもんだな、リーダーさんよお!」

男の手が、志乃の手にあったものを叩き落とす。
はくろう…それが不良グループの名前で、志乃がそれのリーダーだということは、容易く理解できた。でも…

「こんな地味な女男とままごとしてる暇あるなら、その座奪うぞ!!」

「……丁寧に忠告ありがとう」

「あ?」

「でも、俺は君を知らない。それに今、音羽の悪口言ったよね」

すっと立ち上がった志乃は、僕の視界を遮るように前に立ち、しゃがみこむゴリマッチョの胸ぐらを掴んで立たせた。

「音羽、五秒だけ目閉じて耳塞いでて」

「おい、てめっ」

「音羽」

こっちを見ることなく、志乃の背中が僕を催促する。良く分からないまま、返事もできないで、とにかく目を閉じる。そしてすぐに意味がわかった。

『ドッ』

一瞬の鈍い音。
反射的に力が入った体。恐る恐る目を開ければ、志乃の足の間から、ゴリマッチョが倒れているのが見えた。




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