04
「うんやっぱ二週間だ、ほぼ」
「なんでもいいよ」
「いやさ、最初は紫陽花の観察日記書くとか言い出して、真夏に紫陽花って咲くのか知らないけど夏って言えば朝顔だし、一年生と言えば朝顔だよって朝顔にさせたんだよ」
「……妹小学生?」
「小一」
「まじかよロリかよ」
「あ、手出すなよ」
「出さねーよ。俺の事なんだと思ってんの」
まだ少し先の夏休みに思いを馳せる吉村が少し羨ましい。朝顔か紫陽花かなんて俺には心底どっちでもいいはずなのに。何故か、とても楽しそうでいいな、と思ってしまったのだ。そのあと夏休みはどこに行くとか何をするとか、受験生なんてことは忘れているような空気さえ羨ましく感じた。
「折原は?どっかいねぇの」
「バイトと勉強だよ馬鹿」
「女の子と女の子?」
「ばーか頭の中そればっかかよ」
「羨ましいって言ってんの」
「俺は吉村の能天気が羨ましいよ」
「えっ、サンキュー」
「褒めてねぇから」
下敷きで顔を扇ぐ吉村はポケットから携帯を取り出して、「最近良い感じの子居るんだけど」と、女の子の写真を見せてくれた。
しっかり化粧を施された顔が二つ、同じポーズで同じように笑っているそれに「双子?」と真面目に聞いてしまった。最近のプリクラってすごいんだと、誰かが言っていた気がするけれど、まさにその通りで。写っているのは見たことのある、隣のクラスの女子二人だった。実物は全然似てない。
「今さら隣のクラスの女子?」
「今さらとか言うな。ずっと良いなって思ってたんだよ」
「吉村から声かけたの」
「んー、まあ…流れ?」
「ふーん」
大きな目にシャープな顎、真っ赤な唇に爪楊枝みたいな足。長い髪を器用にくるくる巻いて、これでもかと胸元を開けてスカートも短くした制服。確かに、可愛い。実物の数倍。確かにプリクラってすごい。
「折原さ、今彼女居ないじゃん、この二人とカラオケ行かない?」
「……」
「頼むって〜」
「夏休みならいいよ」
「二週間も先じゃん!」と、さっきまで二週間なんてすぐだとヘラヘラしていたはずなのに嘆いた彼に携帯を返し、俺も下敷きで顔を扇いだ。
「二週間ねぇ…」
「なに」
二週間…
二週間経ったら一ヶ月の夏休みだ。
その頃には今橋先生は復帰しているだろう。そうなれば、今野の顔を見るのもあと少し。そう、か…意外と短いのかもしれない。
「別に。英語のノート貸して」
「はぁ?」
「カラオケ行くから。近いうち」
「しょうがないなあ〜ほら」
「吉村ちょろすぎだからもうちょっと気を付けた方がいいよ」
「えっ」
「うそうそ、ありがと」
季節は緩やかに移ろって、梅雨は嫌な時期だと言いながらそれでも一年のうちで見ればたったの一か月ぼどだ。
雪が降る季節よりずっと短い。毎日毎日雨が降るわけでもないし、晴れ間だって覗く。湿気を帯びた空気は重くて体感温度も高いけれどそんなの夏だって暑いのだから同じだ。だから俺は別に梅雨だからって嘆かないし、女の子が髪の毛うねって嫌だとめそめそしているのも可愛いと思うから嫌いじゃない。
ガッツポーズをした吉村を横目に窓の向こうを見ると、ちょうど雨があがったところだった。
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