紫陽花の恋 | ナノ


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「折原!」

「おー、久しぶり」

「久しぶり。悪いね、わざわざ」

「良いよ別に」

「仕事帰りだろ?あ、俺とりあえずウーロン茶頼んだけど、折原どうする?」

「俺もお茶で良いよ」

「俺奢るし飲んでいいのに」

「いや、いいよ」

大学を卒業して二年、お互い社会人になってからは疎遠になっていたけれど、久しぶりに彼から届いたメッセージには結婚する旨が記されていた。式は六月。先々週だった。受付を頼まれてくれたお礼に、と飯に誘ってくれたのが数日前。自分の周りの友達の中では吉村が一番早く、幸せなことにおめでただと、式の前にした電話で話してくれた。

「少ししかないお小遣いで奢ってもらうなんて申し訳ないし」

「痛いとこ突いてくんなって」

「すいません、ウーロン茶とだし巻き卵と天ぷら盛り合わせください」

吉村は高校の時と何も変わっていない。
老け込んでもいないし、喋り方や馬鹿っぽい笑い方もそのままだった。これで父親になるのか、と思ってしまったことは内緒だ。

「どう、新婚生活は」

「んーめっちゃ幸せ、幸せすぎて死にそうなくらい」

「あっそう、良かったな」

「折原は?式の時ゆっくり話できなかったけど、どうなの」

「俺?ん〜どうかな、ぼちぼちって感じ」

「なんだそれ。折原こそおめでた婚とかすると思ってたし」

「いやどう考えても吉村の方がそう言う感じだっただろ。現にそうなってるし」

「いいんだよ、幸せなんだし」

「はいはい」

「まあ…顔もそこそこ良くて公務員の折原くんならすぐいい子見つけてとんとん拍子で結婚とかしそうだから心配とかしないけどさ。つーかツレ周り独身ばっかで俺が速いみたいな雰囲気だし」

出てきただし巻き卵は少し色の薄い、やたら分厚いものだった。
それに箸をつけながら「早いも遅いもないでしょ。この人って相手に会っちゃったら」と言うとキザだと笑われてしまった。

俺も出会ってしまったから。
七年、会ってもいない紺野のことを、俺は今でも好きだ。
他の誰かと付き合ったりもしたけれど、吉村みたいに「幸せだ」なんて心からの笑顔を浮かべて言えるようにはならなくて、結局ダメになってしまった。そのたびに紺野の顔が浮かんで、どうやったって目の前の女の子の方が可愛くて将来性もあるはずなのに、俺は別れを選んで一人のままだ。

「あ、式の打ち合わせの時さ、どっかで見たことある人見かけたんだよ」

「はあ?誰?」

「ほら、高校の時さ保健の先生休んだ時期あったじゃん、その臨時で来てたさ…」

「……」

「天パの眼鏡の」

「紺野?」

「あ、あー…そんな名前だったっけ?」

「臨時の養護教諭なら」

「じゃあその人だ」

「紺野が、何?」

「いやさ、式場の職員だったか普通にほかの夫婦だったのかそこまでわかんなかったけど、トイレで会ったんだよ」

「え?」





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