12
「あっち〜なんでこんな暑いの?梅雨あけたの?」
「……」
「折原〜」
「なんだようざいよ暑苦しい」
「いっぺんに悪口言うってひどくない?」
紺野の部屋に行った翌日、俺は風邪をひいて学校を休んだ。
そのまま土日を挟んで、月曜日。
塀の外に咲いた紫陽花は今が見ごろといった感じで、花壇の花も元気になっていた。
保健室に寄ったら紺野はおらず、けれど校務員のおじさんが今日は来てたよと教えてくれたからまた放課後顔を見に行くことにした。
「ああ〜まじで暑い…」
「分かってるからこれ以上暑い暑い言わないでくれる」
「……」
「で、あの子とはどうなったの」
「折原がそれ聞くの?二人で抜けといて」
「空気読んだんじゃん」
「惨敗」
「え?まじで?」
「お前次の日休むし土日も電話繋がらないし。はぁ〜…あの子、彼氏いるんだって」
「はあ?お前遊ばれたの」
「うう…だからなんで休んだの。慰めてもらおうと思ってたのに」
「まじで風邪だって。あの日駅まで送ってってから土砂降りだったの。雷鳴ってたし。濡れたからたぶんそれで」
「知らねーよ。カラオケ出たの夜だし。てか、送ってっただけなの」
「うん」
「折原が?」
「どういう意味」
「ごめんなさい」
思い切り足を踏むと、吉村は素直に謝ってスマホを出した。今はこの子と連絡取ってるんだけど、と言いながら。
俺よりお前の方がよっぽど軽いじゃんと、喉まで出かかった言葉を飲み込んでどんよりと曇るだけで雨の降らない空を眺めた。
「あ、今橋先生の話聞いた?」
「いや…なに、なんかあったの」
「ああ、夏休み前に復帰するかもって」
「え?」
「俺知らなかったんだけどさ、先生って夏休みでも毎日学校来るらしいの。だから夏休み明けまで休養で良いってことにはならないんじゃないの」
「……」
「まあでも、タイミング的な問題もあるからわかんねぇけど。つーか、俺保健室行かないし今橋先生も紺野先生もほぼ喋ったことないしどっちでもいいんだけど。でさ…」
ゆっくり、紫陽花は色を失っていく。
吉村が今度の子は小柄でおっぱいの大きい可愛らしい子だと嬉々として話している声も、蒸し暑い空気も、教室内のけだるげな雰囲気も、一気に遠のいた気がした。放課後、紺野は保健室に居て、いつものようにださい髪のままぶかぶかの白衣を羽織って、レンズの綺麗な眼鏡をかけて、外を眺めていた。少しだけ開けたドアの隙間から見えた紺野は、数日前と全く同じだった。
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