05


黙って高見先輩を見つめても、彼だって返事を待っているだけでヒントはくれない。

「まだ、分からないです」

「……お前は、何がしてぇの」

「将来の夢的な話ですか?」

「そこまでいかないにしても。大学行きたいとか、インカレ出たいとか、バスケは趣味にして会社員とか公務員になりたいとか」

「……高見先輩は、どうして大学に行くんですか」

「俺はまだバスケがしたいから」

「大学にいかなくても、出来るじゃないですか」

「まあそうだけど。いや、うん、そうだな。バスケで飯食っていけるなら良いよ、それで。でも現実そう簡単にはいかないし、なれたとしても選手生命は長くない。会社で定年まで働くよりずっと短いだろ。だから、バスケを辞めても社会に戻れるように」

高見先輩は高校最強だ、と俺は思っている。
代表キャンプも、俺はその後の選考で落ちたけれどこの人は残った。スポーツ選手が引退した後のことを俺は父親以外誰も知らない。でも父親より高見先輩の方がやっぱり無責任に死ぬまでバスケをやれるのでは、と思ってしまう。

「アメリカも考えたよ」

「えっ、」

「でもそれは流石に無理。うちは一般的な庶民家庭だけどそれを言い訳にするつもりじゃなくて、何て言うかな、俺がしたいことじゃないのかなって。でも、葉月ならやれる気がする」

「俺が、ですか」

「自分がプレーしてる想像は出来ねぇけどお前なら出来るし、純粋に頑張れって思える。ぶっちゃけ、大学でお前が敵になるのも嫌だし」

話題が孝成さんからズレ始めている。
でも、そうやってどうしようかと考える事も許されなかったから…孝成さんはバスケを辞めて、敷かれたレールに戻ったんだとしたら。いや、元々そういう決まりだったのかもしれない。何をしても、最終的にそこに向かう。孝成さんだから出来ることだ。

だって俺は、辞めろと言われて捨てられるほど、他に何も持っていない。

「高見先輩、俺、」

「まあ、せいぜい頑張れよ」

「……」

「この二年、俺はお前とコートに立てて良かったと思ってる。こんな可愛くねぇ奴と、って思ってたけど、アイツの目に狂いはなかった」

高見先輩に握られた手は、大きくて、熱くて、目頭が熱くなった。

その日、先輩の背中を見送ってから孝成さんに電話をかけたけれど、繋がることはなかった。

好きだ、孝成さんが。
あの人の隣に居たい。
孝成さんがバスケをやめたと言うなら、俺は本当に、追う背中を失ってしまう。そう気づいてしまった瞬間から、調子は右肩下がりになっていった。



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