04


「孝成の実家、でっけー病院なんだよ」

「……」

「継ぐのは二番目の兄貴って話だけど─」

「それ、今関係ありますか」

「一番上の兄貴は出来が悪くて見放されて、二番目の兄貴が全部背負うことになって、それでも孝成は親や兄貴と同じようにその道を目指すことになってた」

「高見せんぱ、」

「いいから聞けって。その二番目の兄貴と仲が良くねぇんだよ。お前、アイツの中学の知り合いに会ったんだろ?孝成の兄貴と知り合いっていう」

「……はい」

「あの夜、そいつから会ったって聞いた二番目の兄貴が連絡してきたんだよ。そのせいで次の日ボロボロだったこと、お前は知ってると思ったからあのとき、迎えに行けって言ったんだけど」

「それは、なんとなく、やんわりとは、聞きました。でも何を言われたかとか、そこまで詳しいことは」

「継がないお前は自由で良いなって。兄貴二人はかなり厳しく育てられたみたいで、孝成みたいに部活したりクラブ入るなんてあり得なかったんだ。とにかく勉強、起きてから寝るまで」

「……」

「なんで孝成だけが自由なんだって思ったのかもな。アイツもさ、全然そんなんじゃないのに。勉強だって、主将やりながら首席守ってんだぞ。それがどんだけ大変なことか…まあ、孝成の家の事情までは俺も詳しく知らないし、お前も俺の口から聞いた分で納得出来るとは思わねぇけど」

「結論から言えば、孝成はバスケをやめたし、どんなに成績が良くてここで褒められていても受ける大学は一つだけ。親も兄弟も同じ大学の医学部」と、少し目を伏せた高見先輩は、どこか寂しげに続けた。俺の居なかった一年が、たった一年が、こんなにも差を付けるのか。
高見先輩だって、残念だと、思っている。声色でよく分かる。“残念”なんて、そんな言葉で引き止めて、どんなに無責任か…

会いたい、孝成さんに。
その口から、どうしてバスケをやめるのか…聞いたところで、もうコートには立たないという彼の決意を覆すことは出来なくても。このままでは俺が納得できない。

「とりあえずさ、センター終わるまでは大人しくしてろよ。いやそのあとも話す時間あるかわかんねぇけど」

やんでいた雪がまた降り始めた。
ふわりふわりと舞いながら、ブレザーに落ちて、じわりと溶けて消える。寒いから、とマフラーをぐるぐるに巻いて滑りながら、それでも転ばないように歩く孝成さんが浮かんだ。
俺の地元はこんなに雪降らないよと、一度だけ聞いたかもしれない。だからこの人は雪道の歩き方が下手なのかとか、勝手なことを思ったことは確かに記憶にある。

「葉月は」

「……はい?」

「葉月はどうすんだよ」

“卒業したら”
卒業、したら…問われた言葉が頭の中を一周して、けれど何も答えは出なかった。




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