02


高見先輩にとって最後の大会。すでに進路が決まっているとは言えここで負けるわけにはいかない。バッシュの紐を結びながら加藤を見上げると温まりきっていないのか手をグーパーして相手チームの方を見ていた。

俺がこのチームの副キャプテン、なんて器じゃないことは自分が一番よく分かっている。気分の浮き沈みがプレーに出てしまうし、何より孝成さんや高見先輩みたいに周りを見る余裕がない。

「葉月、大丈夫か」

「ん?」

「顔色よくねぇけど」

「…寒いからな」

「ほんと寒いよな、今日。あー世間はクリスマスなのにな」

体育館にはクリスマスのクの字もない。クリスマスソングさえ今シーズンまだ聞いていない自分は、そんな世間から切り離されてしまったみたいだ。
「集合」と、かけられた声にそんな寂しい考えを捨てて豊峰の元へ戻ると、豊峰は一瞬不安げに俺を見た。

どうしても孝成さんの“完璧”さを彼の立場に重ねてしまっていけない。豊峰自身が一番それを感じていて、自信を持てないでいるのも知っている。

「いいよ、調子は」

「そっか、じゃあ、大丈夫」

自分に言い聞かせるよに頷き、豊峰は一つ深呼吸をした。勝つよ、と、孝成さんの言葉を繰り返して、俺もそれに答えたくて、目の前の試合に集中した。

高見先輩の引退は、高校三冠を手にした後だった。インターハイ、国体、ウィンターカップを制し、全国トップレベルで、高見純輝はバスケ部を去った。去年の正月休みは、公園で孝成さんとバスケをしたな、そんなことをふと思い出したのは、高見先輩の最後の話の最中だった。

「お前、他事考えてただろ」

「……はい?」

「俺の話の途中で」

「考えてないです」

「いや、考えてた」

「まともに聞いてたら泣きそうだったので」

「そこは泣けよ」

「嫌です」

「お前最後まで俺になつかなかったな。孝成ばっかりで」

貴重な連休を明日から三日間控えているというのに、足が重い。
雪の積もった学校の敷地内をゆっくり進みながら、高見先輩が意地悪く口元を斜めにして笑った。

「孝成さんはなんていうか…俺にとっては神様的な存在ですよ」

「知ってる知ってる。でもさ、いつまでもそれ言ってられないだろ」

「今ひっさしぶりに言ったんですけど」

「そうじゃなくて。葉月はこれからも続けるだろ、バスケ。でも孝成は違う。いつまでも葉月が追うわけにはいかない」

「……え?」

「は?だから、お前もいい加減孝成のことばっかり─」

「じゃなくて、孝成は違う、って…」

「はあ?聞いてるんだろ、アイツ、大学ではバスケやらねぇって…ていうか、夏に引退した時点でバスケ自体やめるって」

“やめる”
頭の中でその言葉が妙にクリアに、高く響いた。



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