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「はぁ、は…」

「葉月!ボケッとしてないで集中しろ!」

と、ベンチから大きな声が飛ぶ。集中ならしていた。油断した。話しかけられて。でもそんな言い訳は通用しない。気を抜いた自分が悪い。孝成さんは軽く俺の肩を手の甲で叩いてから切り替えろと、落ち着いたトーンで囁いていった。
まだ始まってから数分しか経っていない。いや、もう数分経ってしまった。俺は一秒も無駄にしてはいけないんだと、汗で濡れた髪を振って額の汗を拭った。

ゆっくり、ゆっくりゆっくり、心拍数が上がる。

『ピッ』

「フリースロー」

ファウルをもらった孝成さんがフリースローラインに立つ。すっと伸びた背中のまま少し目を伏せ、とんとんと、柔らかく床についたボールを顔まで持ち上げる。しなやかな腕、入れ、と祈る必要もないくらいの安定を保って指先を離れたそれは真っ直ぐ迷いなく、リングに吸い込まれた。

「生で見ると鳥肌立つくらい綺麗だよなあ」

「……」

「君んとこのキャプテン」

「無駄口叩くなよ」

「だってもう一本も決まるでしょ。リバウンド狙うだけ体力の無駄じゃん」

もう一本、審判からボールを受け取った孝成さんに視線を向けたまま、「それもそうだ」と思ったことは口にはしなかった。

「手本みたい」

「……」

「今年の決勝は君んとこだろうなって思ってたけど、結構ひやひやだったよね、ここまで」

「あんた、」

「負けると思うよ、悪いけど」

孝成さんがシュートを打ち、前橋の顔を見ないままゴール下へ動く。ボールはきちんとリングを潜って落ちてきて、コート内は早い展開で次の動きへ移っていた。

「おい葉月」

「はい、」

「何か言われてんのか」

「え?」

「前橋」

「…いえ、大したことは」

「お前と同じ二年、ポジションも同じだもんな〜。あっちは去年の優勝校で、アイツも試合出てたけど」

「高見先輩、」

「まあ、顔はお前の方が可愛いよ。犬みたいで」

少しも励ましになっていない。
力の差は言葉に出来ないというのが高見先輩の言いたいことだろう。

「葉月と似てるけどな」

「え、似てます?」

「だから顔はお前の方が可愛いって。なんていうか、考え方とか」

「はあ、?」

「努力型」

「……」

「恵まれた体格にセンスもあって、努力型。まんまお前じゃん」

「白黒つけろってことですか」

「その方が面白いだろ。少なくともお前は来年もライバルなんだし。とりあえず取られた分は自分で取り返せ」

試合はワンゴール差を保って進んだ。
思うように進まない、とは違う。でも、孝成さんが思うよりずっと、思い通りにはいっていない気がする。それだけ会場の雰囲気や自分達の熱気、昂り、そして相手の強さに圧倒されている。




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