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目が覚めて、顔を洗って、髪の毛を気持ち整えて、しっかり朝食をとって、着替えをしてバスに乗り、たどり着いた会場は昨日よりもたくさんの人で溢れていた。

高校野球、バレー、サッカー、ラグビー、プロ野球、Jリーグ、テレビ中継にラジオ、メディアに露出されるスポーツに、バスケは含まれない。それでもこれだけ多くの人が集まって、その中には自分たちの応援も居て、すごいことなんだと、改めて感じた。直前に香月から届いたメッセージには母さんと父さんと写った謎の写真が添付されていて、わざわざ三人で来てくれているのだと、少し、泣きたくなった。

バッシュの紐をしっかり締めて、精神統一している孝成さんのユニフォームをしっかりズボンにインしてあげて、テーピングの手伝いをして、普段と同じ、スポーツドリンクを流し込んだ。

「どっちが勝ちそうですか?」

「 まだかわんねぇだろ。俺らだって昨日あそこから勝ったし」

「まあそうですけど…藤代先輩は?どう思います?」

「……さあ、どうだろうな」

女子の試合は苦手だ。
ぶつかるたび、「あ、」と思ってしまう。
香月と男兄弟みたいに育ったし女だとも思わないけれど、同じようにバスケをしてきた中で、体格や力の差で“ああ、女なんだな”と感じたことは何度もある。香月にそんなことを思うのだから、他の女子に対してなんて気が気じゃない。

「お前ら余裕かよ」

高見先輩にげんこつを落とされた加藤と深丘は大人しくアップを始めた。

「どっちがって、ほんとに分かんないですよね」

「お前もんなこと言ってないで─」

「俺、勝つ自信しかないんですけど、これで負けたらどうしようって…」

「はあ、お前ちゃんと寝た?」

「…はずです」

「勝つだろ。何度も言わせるな」

「……」

「お前はさ、期待の新人だったんだから。そういう情けねぇこといちいち言うな」

「過去形じゃないですか」

「他にも期待の新人は入ってきたしな」

「…」

「その中でもお前は別格。特待で入ってきたし、孝成が可愛がってんだから」

コートの上、一人が倒れた。チャージングだ。細い腕がチームメイトの手に引かれ、すぐにゲームが再開される。

「アイツも残念だろうな、ここで負けたら」

「もう、高見先輩…それ言わないでください」

「じゃあお前も情けないこと言うな」

「……」

「それが勝者の心得だ」

女子の決勝が終わった。
ビーと、機械的なブザーが鳴り響き、会場の空気が大きく揺れるのが分かった。自分たちの試合はまだこれからだ。そんな賑やかな声が遠く聞こえ、自分のどくんどくんと脈打つ心臓の音が一番近く大きく聞こえる。泣きながら、「ありがとうございました」と叫ばれた試合終了の声に、はっと我に返り、誰より先にアリーナに足を踏み入れた孝成さんの背中を追った。触るとピリっとしそうな目でぐるりと会場を一周見渡すその背中を。

試合開始までの間に監督から、コーチから、顧問から、それぞれ言葉を掛けられたけれど頭には入ってこなかった。隣に立つ孝成さんが、ほんの僅かに指先を震わせて、こつ、こつ、と甲を俺の指先にぶつけていたから。全然、集中なんてできなかった。




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