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気持ち良く手元へ飛んでくるボールを決める、リバウンドで誰より高く長く飛ぶ、あとは孝成さんの構築した試合通りに動くだけだ。

「葉月」

勝てないはずがない。孝成さんが「勝ちたい」と言うなら、負ける理由がないのだ。

「打ったらすぐもどれ!」

「孝成っ」

「高見も下がれ!」

「たか、」

綺麗にパスカットし、そのまま軽やかにフェイントをかけ、孝成さんはお手本みたいに綺麗なフォームで点数を決めた。正確で早く、誰よりも綺麗に。孝成さんの指先を離れたボールは無駄の無い、平行に近い線を描いてゴールに吸い込まれた。
ネットが気持ちの良い音をたてて波打ち、孝成さんは涼しい顔で振り返る。たった数秒、それを頭の中でスロー再生出来るくらいには目に焼き付くような光景だ。

歓声の中、「一本一本」と孝成さんの手を叩く音がカラリと響いた。
暑いと寒いの両方を感じていた体が再び熱を帯び、額から顎へと汗が落ちる。真夏の試合だということを今日はずっと忘れていたなと、今さらになって気付いた。

「葉月集中しろ」

「、」

「顔が緩んでるぞ」

「あ、スミマセン」

高見先輩の手が腰を叩く。
それからこそりと「リバウンド全部とれよ」とプレッシャーをかけて、心底楽しそうに目を細めた。高見先輩の方がよっぽど不謹慎な顔をしている。それでも俺は素直に頷いて残りの十分と少しに集中した。

俺だって、にやついているつもりはない。ただ単純に嬉しかったのだ。孝成さんがいつもの調子でゲームの主導権を握りにいくのが。一滴もこぼさず手の中に閉じ込めて、誰にも波打たせない。涼しい顔で蓋をした彼の頭の中は、きっとコートの中の誰より熱いだろう。
飄々と接しながら、緩やかに陥れながら、静かに、足元を掬って、最後に圧倒的な力の差を見せつける。

「おいよく見ろ!無理に突っ込むな!!」

「っあ、」

ふわりと軽いタッチで、孝成さんが手にしたボールの向こうで相手チームのベンチから怒鳴り声が聞こえた。

「孝成!」

ゴール下、素早く隙間に移動した高見先輩へ出されたパスはスロー再生しなればちゃんと見えないくらいの早さで空を切り、思い切り跳んだ先輩の手から離れたボールが気持ち良くゴールネットを揺らした。

流れが、自分達のものになる。

縮まっていく点差を横目に、腹の奥から沸き上がってくる楽しさに体が驚くほど軽く動く。きっと観客席では香月が俺のことを笑っているんだろう。タカナリさん次第過ぎ、と。

当の孝成さんは点が入ってもクールなままで、時々アイコンタクトで次どうするかを、楽しそうに伝えてくれる。キラキラしたその目に、俺は疲れを忘れてボールを追った。






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