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「大丈夫ですか?…すみません、俺、全然気付かなくて…いつから体調悪かったんですか」

「……」

「背中擦らせてください」

「…ダメ、うつったら困る」

「俺、孝成さんが風邪引いてもうつったことないですよ」

「でもダメ。俺もすぐいくから、先戻れ」

「…お願いします、開けて、ください」

「葉月─」

「孝成さん」

しばらくの沈黙のあと、震えを孕んだため息が聞こえた。それから静かに、ガチャリと音が鳴り薄っぺらいドアが動いた。
俺は素早くその隙間に身を滑り込ませ、すぐにドアと鍵を閉めた。高見先輩はえずいてるなんて言っていたけど吐いた形跡はない。ふらりと頭を揺らした孝成さんは、狭い空間で気まずそうにしゃがみこんで俯いた。

「孝成さ─」

触れようとした瞬間「う、」と口を押さえた彼は、俺がしゃがんで背中を擦ると苦しそうに咳き込んだ。たしかに気分は悪そうだけど、何も吐き出されてはいない…冷たい背中を撫でながら今朝のことを思い出そうとしたけれど、朝食の時孝成さんはいただろうか…うまく思い出せない。

「孝成さん、朝、食べました?」

「ん、少しは」

「少しって…」

「大丈夫、緊張、だと思う」

「大丈夫じゃないです、顔色、ほんとに悪いですよ」

「…、っ、う、」

胃液さえも出ない。
俺がいるせいで狭い個室の中に余裕は全くなく、ぴったり隙間にまってしまいそうな形でしゃがむと自分も身動きがとれずもどかしかった。

「はづき」

「、はい」

「あんまり、見ないで」

「孝成さん」

「見るな」

「ごめんなさい、無理です」

緊張、とこの人は言ったけど、そんなこと孝成さんの口から聞のは初めてだ。まさか、そんなことあるわけないと、知らないことばかりのくせに思った俺を咎めるように孝成さんの手がひらりと翳された。

「お願い」

「、俺、は…最後まで、孝成さんとプレーしたいです。だから、具合が悪いなら…」

「違うから、本当に。心配しなくていい」

「孝成さん!」

俺を拒絶した手を掴むと、パッ、と顔が上げられてやっと目があった。試合前の強い眼差しとは違う、何処か不安げな瞳だ。



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