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「……」

「水樹!」

「…知り合い、ですか?」

「……あ、」

「何してんの!」

窓まで数メートル、ガラス一枚隔てているため向こうの声はくぐもって聞こえる。おーい、と大袈裟に手を振るその人は同い年ぐらいの若い男の人で、ぺたりと額をそこに押し付けている。孝成さんが腰を浮かせると、赤くなった額を押さえながらホテルのロビーへ入ってきた。

「水樹!久しぶり!」

半袖のシャツの胸ポケットに校章の刺繍が施されているものの、知らない形だ。それもそのはず、ここは地元でも同じ県内でもない。パンパンになっているリュックを背負ったその人は孝成さんのもとへ真っ直ぐ近寄り、外人並みの抱擁をした。

「笠山」

「良かった覚えてる?」

「覚えてるよ、久しぶり」

かさやま、と懐かしそうにこぼされた名前は、当然俺の知らない名前だ。間抜けな顔をしていたであろうそんな俺に、孝成さんは「中学の時通ってた塾が同じだったんだ」と、笠山さんを紹介してくれた。

「何、水樹どこ行ってんの?高校。まさか同じ県内にいるとは思わなかった」

「違うよ、部活で来てるだけ」

「部活?え、なに、もしかしてまだバスケやってるの」

「うん」

「そうなの?意外。中学でやめるもんだと思ってたわ」

「笠山は?」

「俺?俺はこっちの高校受験したから。今は予備校の帰り」

「そっか」

「いやー、ほんと久しぶり。水樹受験終わってから消息不明だったから気になってたんだよ」

「はは、中学違ったし、同じ中学の知り合いも同じ塾通ってなかったからね」

「元気そうで良かった。そっちは部活の友達?」

「あ、うん、後輩」

す、と孝成さんの肩が傾き、笠山さんの目が俺を見た。なんとなく俺も立ち上がって「こんばんは」と言うと、「び、びったー!めっちゃ背高いね」とその目を大きくした。久しぶりにそういう反応をされたな、と少し新鮮に思ったのも束の間孝成さんが再び笠山さんに向き直る。

「部活って何、今の時期に合宿とか?」

「試合だよ」

「試合か!」

「インターハイ」

「ああ!インターハイ!?スゲー、水樹も出てんの?」

「一応」

「あーそっか、インターハイ…自分が無縁すぎて忘れてたけど、そうか、インターハイね。だよな、試合じゃなきゃ今の時期に部活とかやってないよな」

笠山さんはあっけらかんとした雰囲気で、孝成さんに対してもとてもフレンドリーだった。塾が同じ、という経験こそ俺にはなくてその感覚も無縁だから分からないけれど、こんなに仲良くなるものなんだろうか。




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