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校舎に入ると相変わらず夏休み感のない登校率だな、と下駄箱に収まっている靴を見て思った。二年生でこれだけ来ているのだから三年生はもっとだろうな、なんてのんきなことを考えながら上履きに履き替え孝成さんと階段をあがった。

「あ、部長おはようございまーす」

「おはよう」

「葉月くんおっはよーん」

「……なんなのそのうざいテンション」

「いやさあ、葉月が女子に声かけられるなんてこれは夢かなって。だから殴られても痛くないだろうしふざけてみた」

「はあ?うっざ」

廊下の窓にもたれてにやにやしている加藤をスルーして教室に入り、適当な席にかばんを置く。冷房はまだ効いていないけれど、一応動いてはいるのだろう。低いうなり声が小さく聞こえた。

「な、あの子ってサッカーのマネじゃなかった?」

「だったら何」

「怒りすぎ!ごめんって」

「さっさと席つけ。もう監督来るぞ」

「ひっど。いやさ、部長にべったりでそういう話も聞いたことなかったし、向こうにその気があるならこう、さ、」

「今日も元気に頭の中お花畑かよ」

別にその話を続けてもいいけれど、それ以上は何も出てこない。それより今は明日からの試合に向けた話をされる。というのに…プレッシャーや緊張感なんて皆無の加藤を少しうらやましく思う反面、デリカシーがないところは孝成さんべったりの俺よりよっぽど残念だ。ほら早く座りなと孝成さんに促され、ようやく加藤が座るとちょうど監督が入ってきた。

県外で日帰りというわけにはいかないインターハイの日程はほぼ遠征だ。孝成さんの荷造り、去年は手伝ったな、なんてことを思い出して隣をちらりと見ると、もうその顔はきゅっと引き締まっていた。今年は今日まで何も言われていないけれど大丈夫だろうか…まあ、ユニホームや備品類は個人の荷物ではないから最悪バッシュと財布を忘れなければなんとかなる。下着靴下もろもろを現地調達すればいい、それだけの話だ。洗濯も自分でするし、数は必要ない。逆に言えば、どうしてそれだけのことがこの人は出来なかったんだろう…

そう思ってもう一度、今度は盗み見るように視線を向けると孝成さんはぱっとこっちを見て「ちゃんと聞く」と内緒話をするみたいな声で囁いた。
ああ、触りたい、なんて場違いで不謹慎なことを考えてしまった俺に孝成さんは前を指差した。

「何か質問は?ないならすぐ練習に移るぞー」

ミーティングが終わると一斉にガタガタと椅子をひく音が響く中、孝成さんと高見先輩は残るよう指示され、俺は他の部員と先に着替えを済ませて体育館に移動した。



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