08

肌を刺すような日差しは日を追うごとに強くなっていた。こういう季節になると心底体育館競技でよかったなと思うのだけど、不思議なことに外部活の人間にしてみたらサウナ状態になる体育館よりは外の方が我慢できる、と思われている。うちは空調完備されているから余計にそう思うだけかもしれないな、と自転車で追い越していった中学生の背中を見て思った。
中学までは本当にサウナみたいな体育館だったことを思い出したのだ。

この蝉の鳴き声も、背が伸びたからか数年前よりうるさく感じる。もちろん、数センチ耳の位置が高くなっただけでそんなことはないと分かっている。そんなくだらない言い訳でもしないと、我慢出来ないくらい煩い。その中、孝成さんが家から出てくるのを待った。
まだ朝は良いのだけれど。空気はいくらか涼しいし、木の影に入れば快適だから。

「葉月、ごめん、お待たせ」

「いいえ」

どんなに蝉が煩くても、ジリジリと照り付けるような暑さの中でも、凍える雪の日でも、土砂降りでも、孝成さんを待つ数分を苦痛に思ったことはない。
相変わらず襟が片方たっているし、ボタンもかけ違えている。きちんとスラックスに押し込んでいるつもりのシャツは、ぺろりと片方の裾が顔を出しているし、なんでこの人は、と口元が緩んだ。

「直った?」

「まだです」

「寂しいな」

「はい?」

「葉月がこうやって朝一で直してくれるのも、今日が最後なの」

「……」

「あ、でも試合含めたらまだあと…七日、あるね」

「……はは、それ、負けないってことですよね」

「正解」

にこりと笑った孝成さんに、明日から七日間の試合日程をぼんやりと思い浮かべる。初日は開会式だけだけれど、それを含め一週間。孝成さんの中に“負ける”という選択肢はない。この先一つでも負けたらそこで終わりだから。俺も孝成さんを日本一にすると約束した。

「楽しみだな」

「俺は緊張して吐きそうですよ」

「そんなにナイーブだった?」

「ナイーブです」

「意味知ってる?」

「知ってますよ!」

「あはは」

孝成さんが引退しても俺はこの少しの遠回りをしたい。朝も放課後も部活がある分どうしても孝成さんとは登下校の時間が合わなくなるのは分かっていて、もしそれが逆なら俺はこの人のために早く家を出て、部活が終わるまで待っていたい。孝成さんの中にその考えがないのは寂しいけれど、考えてみれば本当にこの通学路を歩くのはわずかな時間だ。当たり前か、と試合前の張りつめた空気を弛ませるような孝成さんの顔から目を逸らした。




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