07

外はまた明るく、照りつける暑さはないものの抜けきらない籠った熱が空気に溶け込んでいた。
野球部がちょうどグラウンド整備を始めていた。声が聞こえないのは聞こえないで、少し寂しい。彼らの夏は既に終わっていて、三年生は引退している。だから余計に、静かに感じるのかもしれない。

「ただいま」

「あ、おかえりー」

「あ、お前それ」

「んん?」

「俺のアイスじゃん」

「あ、ごめん、食べる?」

「いらねーよ食いかけとか」

「だって葉月食べないから。ずっと冷凍庫入ったままだったし忘れてたでしょ」

「忘れてねーよ」

髪の毛全部を頭のてっぺんでまとめて巨大なだんごにして、後れ毛が邪魔なのかヘアバンドでつるりと晒された額を叩いて鞄を置く。リビングは涼しいのに、香月はキャミソールに布切れみたいな短いショートパンツの部屋着姿で、けれど全然色っぽくない。深丘に見せてやりたいくらい本当に全くセクシーじゃない。
孝成さんの方が何万倍も…と、考えてしまう辺り、重症だ。

「なに、元気ないじゃん。怒られた?」

「怒られてねーよ」

「ふーん。一口いる?」

「いらねーっての」

「怒んなくていいじゃん。試合終わったら買ってあげるから」

「分かってんなら食うなよ」

「でも夏だしさあ、食べなきゃすぐバテない?」

「アイスばっか食ってて夏バテしない香月もすごいけどな」

「ご飯もちゃんと食べてるからね〜」

「腹立つな」

体を動かしながら物を食べるねじまがった根性は褒めてやりたい。食事の量を減らしているわけではなく、余分な間食を減らしているだけ。無理して我慢しているほどではない。体型維持、というよりは健康管理に近い。
香月の細い足を跨ぎ、手洗いをしながらキッチンに立っていた母親へ声をかけるとちょうどレンジがピーピーと音を立てた。

「ごめん、なんて?」

「あー、まあいいや」

「えーなによ?」

「何でもない。孝成さんがうちに来るかもって言いたかっただけ」

「えっ!?部長さん?えっ、いつ?」

「いつとかじゃないけど、そのうち」

レンジから出した皿にかけていたラップを剥がし、母さんは「楽しみだな〜」なんて上機嫌に笑った。俺も、浮かれていた、と思う。ずっと手の届かない人だったから、バスケ以外の繋がりが出来ることに。
なんて、携帯一つで繋がれるこの時代に、たった一つの口約束で浮かれてしまう自分が可笑しかった。香月に機嫌良い顔も気持ち悪いなんて言われてしまうくらいには、浮かれていたのだ。




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