04
やっと教室を出て腕を伸ばしながら、この生活がまだ何日もあるのかと思うと憂鬱になった。
「香月先輩、残念でしたよね」
「なんだよ突然」
「いや、さっき話してたときに思い出して…」
部室棟へ移動しながらポツリと呟いたのは深丘だった。俺は少し前の事を思い出しながら、それでも香月が落ち込んでいるところは浮かばず、それより透の事があったときの方が滅入っていたのでは、と気づく。
香月の高校はあと一歩でインターハイに及ばず、予選で夏を終えた。
「あっけらかんとしてるからな、香月は」
「そんな感じはしますけど…」
「勝ち負けに拘ってないっていうか…それこそそこそこ強い高校いったけど、香月はどこでも良かったんじゃないかって思うし」
「勿体無いですよね」
「そうか?」
「だってせっかく上を目指せるのに」
「……いいんじゃねぇの、アイツはそういうタイプじゃないよ」
「藤代先輩とはやっぱ違いますね」
「良い意味で?」
「当たり前じゃないですか!って言うのも失礼なんですかね、えっと、そうじゃなくて…」
「それはさ、深丘にとっての葉月が理想通りで良かったってことでしょ」
「そうです!そうですそうです!今の先輩は大分丸くなってますけど、プレーとか意思とかは憧れてた時のまま変わってないんですよ」
「あはは、俺にも分かる」
「え、俺全然分かんないんですけど」
「いいよ葉月は。また今度ゆっくり、中学の時の話聞かせてもらおう」
「えっ!ぜひ!」
「やめてください。深丘も断れ。キャプテン相手に下らない話するな」
孝成さんは機嫌良く相槌を打ったり会話に参加していたのに、部室に荷物を置いて着替えを済ませるときゅっと顔を変えた。一日に何回も着替えをする面倒さをひしひしと感じながら、その微妙な変化に気付いて「どうかしましたか」と問うと、ぱっと視線が逸らされた。
「なんでもない」
「、そう、ですか…」
試合前のピリッとした空気とは少し違う、変な空気だ。素早く着替えを済ませた深丘を先に体育館へ行かせ、俺はバッシュの紐を締める孝成さんの足元にしゃがみ込んだ。
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