02


インターハイ予選の最終戦の後、孝成さんはしばらく片目にガーゼを当てていた。眼帯は大袈裟だからと笑っていたけれど、どちらにせよ目立つのは変わらない。怪我の具合で、というよりは見た目がグロテスクだったから隠している程度で、視力に問題もなかった。
まあ、あの水城孝成が喧嘩、なんて馬鹿げた噂話が流れることもなく、穏やかにこの夏休みを迎えた、というわけ。俺へのしごきが今まで以上に厳しかった、ということを差し引いて。

「ふ、藤代先輩…」

「……」

「俺もう無理です、気絶しそう」

「気絶したら明日がまたキツくなるだけだぞ」

「ですよね、知ってます。やります」

「頑張れ」

「葉月もね」

「あ…孝成さん…おかえりなさい」

「ただいま。終わりそう?」

「……」

「深丘は?」

「え、へへ…」

「馬鹿、ヘラヘラするな」

「あ、すみません」

不適ににこりと笑った孝成さんは俺の手元に紙パックのリンゴジュースを置いて隣の席に座った。ネクタイの無い首元が心許ないなと、夏服姿の孝成さんを見る度思うのは俺だけだろう。

一番上、たった一つの開襟にどきりとする。

「葉月の分」

「ありがとうございます」

「ストップ、終わってから」

「……はい」

「俺もそれまで飲まない」

「えっ、ぬるくなりますよ」

「うん」

「う、はい…早く終わらせます」

「お願いします」

孝成さんは既に机の上を綺麗に片付けていて、きちんと鞄に詰め込んでいる。その鞄の中からブックカバーのかかった本を取り出し、「分からないところあったら言って」と呟いて静かに目で文字を追い始めた。
もうすっかり綺麗になった目元を数秒見つめたあと、俺は気持ちで残りのノルマをこなした。その頃には加藤も高見先輩ももう廊下には居らず、体育館へ移動していた。



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