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インターハイを月末に控えた七月中旬、夏休みに入った。夏休みと言ってもうちの高校はほとんどの生徒が特別補習や進路相談などで登校してくる。ただ時間がいつもより遅いとか波が疎らで、ああ、夏休みなんだなと、俺はそこでやっと実感していた。
例に倣ってバスケ部も課題と部活を丸一日こなし、休みだなんてただの気のせいでしかないくらいだった。
「あっちー!バカ!暑い!」
「中に居れば良いだろ」
「無理、窒息しそう…俺そこそこ勉強できるし、こんなに必死になってやんなくても…」
「うちなんて設備整ってて涼しい方だぞ。教室も体育館も。つーか、お前それ葉月の前で言うなよ」
「…どれですか?」
「勉強できるって」
「事実じゃないですか〜」
「葉月よりは、出来るの間違いだろ」
「可笑しいなー、中学まではそこそこ出来るゾーンにいたはずなんですけど」
「周りのレベルが違うからな」
「そうですよねー葉月みたいなのばっかりだったからな…中学」
「うるせー!聞こえてるっつーの!」
午前のまだ暑さがましなうちに部活、昼を食べてから日が傾くまで勉強。そのあと自主練という名の部活。まだこの生活が有り難いと思うのは、インターハイが終わったあとの合宿の方が地獄だからだ。
しかも今年のその地獄合宿に孝成さんが居ないとなればさらに地獄で、生きて帰ってこれる気がしないほど。
廊下から聞こえる加藤と高見先輩の声にはそこで栓をして、なかなか終わらない今日中のノルマに視線を落とす。
空調完備の教室内は快適、とまではいかないにしても随分過ごしやすく、座って勉強しているだけなら充分の涼しさだ。隣に座っていたはずの孝成さんは休憩だと言って自販機にいってしまった。
ノルマが終わらずペンを動かしているのは自分を含めて数人。半数以下。加藤にしてもそうだけど、ある程度の“学習能力”が高校受験の時点で必要なのだ。残っているのはそれが備わっていない、バスケの推薦やギリギリで入学してきた数人、というわけだ。
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