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勝ったとは思えないようなチーム内の雰囲気に耐えかねた加藤がさっさと着替えを済ませてジャージを羽織ると、まだ着替え終わっていない俺を急かして通路に出た。
「まあ…あんまり落ち込むなよ。勝ったんだし」
「落ち込んでねぇよ」
「いやそこは落ち込めよ」
「どっちだよ」
「俺も、部長のやつは正直わざとだなって思ったけど」
「っ、」
「思ったけど、審判は退場って判断したし、試合には勝ったじゃん」
「……孝成さん、二本目のフリー目閉じてた」
「うん、あ」
「なに─」
振り向かなくて良い、と慌てて俺の胸ぐらを掴んだ加藤は、けれど遅くて俺の目は後方を見ていた。
「っ、」
ばつが悪そうな顔。
同じようにユニホームを脱ぎ、Tシャツにジャージ姿に着替えたその人は気まずそうに下唇を噛んで小さく頭を下げた。別に今さら文句なんて言わないし、そんな男らしくもスポーツマンらしくもないことは孝成さんに許してもらえない。ただ、それでもつられて頭を下げるようなことは出来なかった。
「ファウルとられてもいいとは思ってたかもしれないけどさ、怪我させてやろうとは思ってなかっただろ、さすがに」
「それは分かってるけど、」
「終わり終わり。ほら行こうぜ」
孝成さんはその日、学校に戻って解散するまで俺と口をきこうとはしなかった。怒っているのか、何て聞かなくても分かるくらいにはピリピリしていて試合前のピリつきとはまた違うそれに正直胸がざわついていた。
一年生にこの独特な違和感が伝わっているのかは謎で、少なくとも深丘は全然気付いていなかった。
「孝成さん、もう、帰れますか」
「帰れるよ」
少し腫れた目元を前髪で隠すように小さく顔を振った彼に、じゃあ帰りましょうと呟く。孝成さんと歩く短いこの道がとても大事で、好きなはずなのに…いたたまれないような気持ちになる。自分がいけなかった、謝った方がいいんじゃないのか、一人で考えを巡らせて立ち止まると、すぐに気付いてくれた孝成さんの足も止まった。
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