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もう一本、孝成さんは姿勢を整え、目を細めて構えたあと、ゆっくり瞼を閉じてしなやかな動きでシュートを打った。数秒前と同じ、とても綺麗なフォームで。
「、」
今度はいつも通りの、綺麗な弧を描いたボールはシュパッと気持ちのいい音をたてて床に落ちた。目を閉じてもぶれない綺麗すぎるシュートにさっきとはちがう、相手側のざわつきが生まれた。
孝成さんは自分の偉大さを全然分かってない。全くの無意識でゲームの主導権を握り優勢をとっているというなら尚更たちが悪い。でもきっと、この人はそうなんだろう。俺が俺が、というタイプではないのに自然と周りが付いていく。天性の才能だ。それを、自分は平凡だと思い込んで努力を怠らないのだから、俺なんかにはどうやっても勝ち目はない。
「第四クォーターは孝成抜きだ」
「分かってるよ」
「ちょ、高見先輩!抜きって…」
「コンタクトなくてボール追えない上に、眼鏡やコンタクトがあってもまだ視界ぼやけてる奴コートには立たせない。また怪我でもされたら困るし、このゲーム、孝成が無理してまで出るようなものじゃない」
「高見。その言い方は良くない」
「…悪い」
「勝つのはうちだけど、足元掬われて負けることだってあるんだ。気を抜かないでプレーしてほしい」
最後の十分、孝成さんはベンチから静かに視線を向けていた。孝成さんの穴を埋められるはずはなく、それでも試合は特に動かない状態を保っていた。
それがガタリと崩れたのは俺が立て続けにファウルをとられてからだった。苛ついている自覚はあって、それがいけないのだと理解もしていて。それでもプレーに出てしまったのは自分の弱さだ。点差はあっという間に縮まり、俺はベンチに下げられた。
試合はなんとか数点リードしたまま終わり、孝成さんの言葉通り勝利を手にした。
インターハイ出場が決まり、ここまで一つも負けなかった。それでもここにきて「最低な内容だった」と監督からは呆れられた。
「葉月。お前が煽られてどうするんだ」
「すみません」
「あのままお前が出てたら負けてたぞ」
「はい」
「はぁ〜…とりあえず閉会式だ。着替えてこい」
暑くてたまらなかったはずなのに、体はすっかり冷えていて汗に濡れたユニホームがひやりとして余計に寒気を感じた。
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