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一歩、近づくと潔くコートを出るために背中が向けられた。俺は反射的に「おい」と、その背中を呼び止めていた。
葉月!と、慌てて俺の腕をひいた加藤の声が聞こえる。

「葉月、やめとけって」

「わざとだろ」

「葉月」

「わざと怪我させただろ、あんた」

「葉月!やめろって。わざとでもそうじゃなくてもテクニカルだ。お前まで退場くらったらそれこそこっちが不利になる」

「孝成さんが怪我した時点でこっちの損失の方が大きいだろ、どう考えても」

思いきり引き留められている。
確かにこれ以上高圧的な態度で審判の制止まで無視しては俺までファウルをもらってしまう。加藤の汗ばんだ手に従って後退したところで孝成さんがコートに戻ってきた。眉の端に貼られた絆創膏が瞬きで僅かに揺れる。

「葉月」

「、はい」

「この試合、勝つのはうちだ。文句言ってないで下がれ」

「でも、」

「葉月だったら怪我はしてない」

「…え?」

「俺だから力に押されて倒れたけど、これが葉月や高見だったら転んでない」

「孝成さ─」

「俺だったから。そういう俺にしか怪我させられない相手に葉月が怒ることない。葉月に怪我させる度胸のない相手だ」

ほらフリースローだから、と俺の背中を押した孝成さんはフリースローラインで立ち止まってリングを見上げた。血が出ていたから驚いたけれど、目には何もしていない。ただ、コンタクトが落ちたらしく、絆創膏のある方の目を軽く押さえながら受け取ったボールをトントンと数回片手でつく。それから、ゆっくりと腕をあげてフォームを作ったものの、やっぱり焦点が定まらないのか眉が寄せられた。

「見えてないのかも」

「えっ」

「アイツ、視力すげー悪いから」

「……」

綺麗な動きの中で放たれたボールはガコンとリングに当たり、ボードに当たり、不格好にネットを揺らした。シュートはしっかり決まった。けれど、孝成さんのフリースローの中で、こんなに不格好だったものは他にない。それは、得点が入ったのにベンチがざわつくほどだった。他のメンバーも焦りを感じているだろう。





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