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試合は無事に二勝をあげ、最後の試合。
得点はうちの学校が少しリードしていた。この試合、勝っても負けてもインターハイ出場は決まっている。二つある枠のうち、もうひと枠を他の三校が奪い合う展開。このままいけばこの試合も問題なく勝てる。そんな、いけない油断をした第三クォーター終盤。
孝成さんに付いていたディフェンスが血走った目で孝成さんを見ていることに気付き、けれど何か言うほどでもないかとタイマーに視線を移す。あと数秒、そう思った瞬間だった。
素早く身を翻し最後のシュートを打つ体勢に入った孝成さんにディフェンスの体がぶつかる。「あ、」なんて間抜けな声を漏らしたのは俺だったと思う。

「孝成さん!!」

明らかなファウルだ。
相手選手の肘が、孝成さんの顔に当たった。勢いよく倒れた孝成さんの手から離れたボールはリングに当たり、そのまま跳ね返ってコートから飛び出していた。

倒れた孝成さんに駆け寄るとすぐに審判がファウルの笛を吹き、タイマーが止まる。

「孝成さん?大丈夫ですか?どこか怪我─」

「…ああ、」

肘が入ったであろう左目を押さえながら、焦点のあっていない黒目が床を見渡している。
「立てるか」という審判の問いに頷きながら、立ち上がろうとした彼を支えるとぽたりと赤い液体が足元に落ちた。

「え…」

それは孝成さんの指の間から手の甲へ流れ、腕を通って肘の先から滴っていた。大した量ではない、垂れたのはその数敵だけだった。それでも慌てて孝成さんの手をどけると眉の当たりに小さな切り傷ができていた。

「大丈夫だから」

「孝成。一旦下がれ」

「高見先輩…」

「フリー打つなら、せめてその血拭いてからだ」

「…分かった」

「たか─」

ベンチからタオルを持って駆け寄ってきたチームメイトに、コートを出たところで孝成さんを託すとすぐに止血とガーゼが施され、ゲームが止まったのはほんの少しの時間だった。けろっとした顔で大丈夫と言いながら監督と少し言葉を交わす孝成さんを横目に、一言も謝らなかった張本人を振り返る。ぴくりと肩を揺らし、ばつが悪そうに視線をそらした相手のプレイヤーは、テクニカルファウルで退場を言い渡された。






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