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週末、決勝リーグの日にはすっかりなにもなかったように肘は綺麗になっていた。
県の代表、といえばうちの高校がまず最初にあげられる。それでも順位が変わることもあるし、ここ三年はインターハイもウィンターカップもうちが出ているものの決して、楽に、というわけではない。

「緊張しますよね」

「あ?」

「試合の日って。藤代先輩は中学の頃からこう、堂々としてましたけど」

「まあ…緊張、はしない、か。でも別に堂々ともしてないだろ」

「してましたよ」と苦笑いを浮かべた深丘は透が来ていたということを然り気無く教えてくれた。本当にまた見に来たのかと、少し気が緩むのがわかった。これは、孝成さんに抱いている気持ちとは別物だ。ただ、どうして、孝成さんにだけ劣情を抱くのか、それは疑問だ。孝成さんの隣は神域だと思っているはずなのに。

「アイツは大丈夫だよ」

「え?」

「お前も心配してただろ。透のとこの出場停止と部活停止のこと」

「……」

「なるほど」

「はい?」

「いや、こっちの話。お前一年でレギュラーとったんだからもう少し自分の心配だけしてればいいのにって思っただけ」

深丘のお陰で少し、ほんの少し、孝成さんの気持ちが分かるようになった気がする。俺と孝成さんではものの考え方も捉え方も違えば立場も違うからあれだけど、単純に先輩後輩としての関係については。
気を抜けば簡単に足元をすくわれる。すくわれてしまえば、あっけなく夏が終わるのだ。まだ始まってもいない本格的な夏が、来る前に「終わった」と表現されるのは辛い。深丘は頭の上にクエスチョンマークを浮かべて俺を見たけれど、それ以上何か言うつもりはなかったから俺は黙ってストレッチする孝成さんへと歩み寄った。

「ユニホーム裏表あってますか」

「…あってるよ」

「じゃあいいです」

「暑いな、今日」

「え?ああ、確かに…じめじめしてますね」

「何だか」

「……はい?」

「……」

「気分悪いですか?」

「いや、少し、気持ち悪い」

「えっ!?大丈夫ですか?え、どうしよう、横になりますか」

「はは、そうじゃなくて。湿度高い体育館って、気持ち悪くない?」

「あ、ああ、そういう…具合悪いのかと…」

「だったらもっと早く言うよ」

「うそですね、孝成さんからそういうの聞いたことないし」

「おしゃべり終わり」

「あ、」

孝成さんの言うとおり、体育館内の湿度は高く、アップで軽く動いただけでもすぐに汗ばむくらい暑かった。試合が始まれば余計に体温は上がるし興奮もする。そうなってしまえばもう多少の暑さなんて気にならなくなる。




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