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放課後の静かな校舎に移動し、保健室へ入るとすぐに養護教諭が手当てをしてくれた。
「バスケ部のエースに怪我させたなんてシャレにならないからね」と先生に言われてから、だからあんなに謝られたのかと初めて気付いた。

「もう部活には戻らない?一応絆創膏貼っておくけど、汗で剥がれたりしたら綺麗に水で洗って絆創膏貼り替えてね」

「はい」

「まー、これくらい若いからすぐ治ると思うけど」

「ほら、孝成さん心配しすぎですよ」

「藤代くんに何かあったら一大事なの。それだけ水城くんに期待されてるってことよ。はい、じゃあ先生サッカー部のマネージャー様子見てくるから」

「はい、ありがとうございました」

大きめの絆創膏一枚、本当はそれさえ要らないくらいの軽い擦り傷だ。土の上でもアスファルトの上でもないから汚れてもいない。なんなら、部活や試合でぶつかって転ぶ方がよっぽど痛い。

「孝成さん、戻りましょう」

「…、」

「孝成さん?」

「葉月が、落ちたのかと思った」

「え?あ、それで…」

はあ〜と脱力した孝成さんは椅子に座る俺の前で膝をつき、くっと顔をあげて良かったと溢した。そのまま俺の手をとり、ゆっくり浮上させて絆創膏の貼られた肘を撫でた。テーピングをしたままの固い指の感触が薄いテープ越しに伝わる。

「葉月が怪我してたら、って」

「…心配、してくれました?」

「当たり前だろ」

労るような撫で方が俺のことを大事に思ってくれているようで、泣きたくなる。嬉しい、心配するのが当たり前で。

「大丈夫ですよ、俺簡単に怪我するつもりないし、今までも大した怪我とかしたことないですし」

「葉月に何かあったら俺困るよ」

「……」

「なにその顔 」

「自惚れてます」

「はあ?」

「孝成さんに心配してもらえるくらいには、俺頼られてるんだなって」

「……」

むっと俺を見上げた孝成さんは、それでも言い返しては来なかった。代わりに俺の肘にキスをして、もう戻ると立ち上がった。

自惚れではなく、勘違い、だ。

俺が怪我をしたと思って血相変えて駆けつけてくれて、小さな傷で心配して。そこまではいい。でも、傷口を撫でたり、キスをするなんて…俺はそんなこと万人にはしない。大事だと思っている人にしか。だから、孝成さんにとって自分もその“大事な人”であるのかもしれないという、都合の良い勘違いだ。




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