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女の子の短い悲鳴が聞こえ、えっと声を出す間もなく赤と青のゼッケンが降ってきたのは。今の今まで干されていたのか、微妙に良い匂いのするそれを視界で捉え、更に人まで落ちてきて衝撃で尻餅を付く。ハラハラと通路に散ったビブスは大袈裟に大惨事に見せ掛けていて、足を滑らせたらしいジャージの女子が俺の上から慌てて退いた。

「す、すみません!!」

サッカー部のマネージャーだ。
部室棟の上で洗濯が干せるようになっているから、取り込んで戻るところだったのだろう。一緒に滑り落ちてきた大きなカゴがゆらゆらと彼女の傍らで転がっている。

「あの、…あ、ケガ… 手とか…」

「あ、ああ、大丈夫。マネージャーこそ─」

「葉月!?」

ケガしてない?と体を起こした俺を遮ったのはさっきまで体育館にいたはずの孝成さんだった。孝成さんは焦ったように駆け寄ってきて、俺の肩を掴んで「怪我は!?」と問う。

「あ、大丈夫です」

「あ、あの、ほんとに、ごめんなさい…あの、」

「俺は大丈夫だから。せっかく洗濯したビブスまた汚れるよ」

ね、と座ったまま手元に落ちていた数枚を拾い集め、孝成さんの視線を横目にカゴの中に落とす。

「マネージャーは?怪我してない?」

「はい…」

「そうよか─」

「葉月」

「はい」

「来い」

「、えっ、」

あのカゴを小柄な女の子一人で持って階段を上り下りするのは危ない。孝成さんの友達にサッカー部の人が居たはずだから、声をかけてもらおうか。余計なお世話かもしれないけど…でも、と、再び俺を遮った孝成さんは怒ったように俺の腕を引いて保健室へ向かった。

「血が出てる」

「えっ?」

「肘」

「あ、ほんとだ。擦りむいてる。でもこれくらい平気ですよ」

「平気じゃない」

怒ってる。
高見先輩の言うとおり、機嫌が良くなかったところに俺が怪我をしたから余計に…いや、さすがにそれは都合がよすぎる。部員が怪我をしたことに対して多少怒ったり心配はするかもしれないけれど…こんなに怒りはしない、気がする。というか、普段の“怒る”とは種類が違う。今の方が、なんというか…人間らしい怒りの出し方だ。




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