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「加藤」
「はい」
「どうだった?」
「葉月ですか?」
「うん」
「まあ〜いつもよりはエンジンかかるの早かったですけど、間抜けでしたね」
「加藤」
「部長抜けた途端あれ?みたいなのあったじゃん。すぐ持ち直してはいたけどさ。あれはださかった」
「俺もそう思う」
「……」
「次も葉月はスタメンだからね」
「…はい。あの、孝成さん」
「なに?」
「昼、それだけですか?」
話を逸らしたかったわけではなく、単純に不思議に思っただけだ。孝成さんの手にはパウチのゼリー飲料のみ。荷物も他には持っていない。
「食べると体重くなるからね」
「俺も部長タイプ。葉月が異常なんだよ。食いすぎ。よくそれで走り回れるよな」
「俺は小学生の時からこれが普通だから」
動いたらお腹が空くし、食べ過ぎて動けないという経験はない。まあそれは家庭環境のせいでもあると思っていて。暑くて食欲がないと言っても有無を言わさず揚げ物をするような母親に、出されたものは大盛りであろうと爆盛りであろうと絶対残さない大食いの父親を見て育ったから。香月も同じように食べるし、藤代家ではこれが普通だ。
「…部活ないときなら、たくさん食べますか」
「食べるよ」
「そうなんだ…あ、高見先輩がそう言ってて」
「あの人もめちゃめちゃ食うじゃん。でも葉月の方が食ってるぞ」
「あんまり孝成さんの前でそういうこと言うな」
「あはは、部活あるときはいいよ。でも、それで太るのは許さないかな。オフが続くときも、ね」
「……はい」
くしゃりと、中身が空になったことを知らせる音が孝成さんの手の中で響いた。確かにいつもそれだけだ。あまり試合中は一緒に食事をとらないから聞いたことはなかっただけで。そう、試合の日のお昼はいつも別々だ。孝成さんは休憩中でも試合の続くアリーナから目を離さないし、お昼も例外じゃない。
珍しいなと、視線を口元から目へ移すと「ん?」と小さく頭が動かされた。
「あ、いや…試合、見てないの珍しいなって手を思って」
「ああ…なんとなく…ちょうどハーフタイム入ったし」
でもそろそろ戻ろうかなと腰を上げた孝成さんはぐるっと辺りを見渡して、俺の頭をやんわりと撫でた。
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