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パスカットに成功した足で、キュキュッと体をまわして素早く放たれたボールは綺麗な弧を描いてゴールネットを揺らした。点数が4になる。
「はえー」
「早いとこ点差つけて高見藤代あたりひっこめたいんだろうな」
「今年もまたでかい一年仕入れてるしな〜」
コートの中に居れば嫌でも気付く。けれど、外でただ見ているだけでは気付かないかもしれない。もう孝成さんがゲームの主導権を握っていること。
試合は目まぐるしく展開することもなく、始まる前に誰かが呟いていた“圧勝”という結果に終わった。俺や高見先輩も、実質プレーしていたのは半分ほどだろう。それでも高見先輩も容赦ない人だからめちゃくちゃに攻めてダブルスコアで白星をあげた。
負ける不安なんて少しもなかったけれど、勝つことを当たり前にするのが孝成さんは嫌いだ。だから俺も孝成さんや高見先輩の事は言えないのだけれど。
それから孝成さんの言った通り、背番号10の沢木は俺をしっかり押さえていた。けれど、試合結果には影響は出ず、ここで終わったのだと語る背中に、胸の奥が痺れた。
「おい葉月」
「、はい」
「行くぞ。邪魔になる」
「すみません」
遠ざかる背中から視線を外し、高見先輩にユニホームの背中を掴まれたままコートを出た。
通路に出るとギャラリーから応援していた一年生が出迎えてくれた。俺はそんなチームメイトの向こうに香月が居るのに気付いて軽く手を挙げた。もっとも、手なんて上げなくても香月には俺が見えているだろうし、目の動きだけで存在に気付いたことは伝わっていたと思うけど。
それでも手を挙げた俺に、香月は大袈裟に手を振って駆け寄ってきた。
「お疲れ」
「ばっか、まだ集合かかってるからくんな」
「あ、ごめ ん」
次の試合相手と時間についての説明、各自昼食をとったあと何時に集合、という連絡事項を淡々と話した監督のあと、コーチが少し話をして解散となった。その頃には香月もうんうんと、他校のジャージ姿のまま我が物顔で返事をしていた。
高見先輩は軽く俺の頭を叩いたけど、それ以上は何もしなかった。
「だっさかったね、葉月のシュートミス」
「うるさい」
「あ、でもタカナリさんとの連携は綺麗だった」
「お前なんで来てんの。自分の試合は」
「このあと」
「はあ?何遊んでんだよ」
「いいじゃん。葉月のこと励ましにきてあげたんじゃん」
「励まされる覚えないんだけど」と、答える俺に食い気味で腕を引いた香月は少し声のトーンを落として呟いた。
「とーるちゃん来てる」
「え?」
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