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「わたしはね、タカナリさんみたいな人が好きだな〜」

「はあ?」

「あの人、わたしに大きいねって言わなかったから」

「なんだそれ」

「葉月がさ、デカ女って言って馬鹿にしたじゃん、その時に“俺と同じくらいだからそんなに大きくないよ”って言ってくれたんだもん、天使かって感じだった」

「単純だな」

「うるさい。いいの、嬉しかったんだから。出会った人みんなにデカ女って言われる気持ち、葉月にはわかんないよ。それに引き替えとーるちゃんは会うたび巨人兵って言うんだもん」

「あー、そうだな、そういえば」

「とーるちゃん、わたしと身長競ってたもんな〜」

「香月最近また伸びただろ」

「葉月のそういうとこ良くないよ。絶対女の子に太った?とか聞くタイプじゃん」

「なに、聞いちゃダメなの」

「当たり前じゃん。はあ、バスケ脳すぎて絶望的」

「俺休み明けごとに孝成さんに太ったって言われるけど」

それとこれとは違う、と思い切り膝蹴りをされた。
軽いランニングは、結局ラストスパートを本気でかけて部活並みに疲れるものになってしまった。夜、透にはメッセージを送ったけれど返信はなく、翌日いつもより少し早く家を出て孝成さんを迎えに行った。

すっきり晴れた空の下で孝成さんを待っていると、予想外に歯を磨きながら外まで出てきた本人に「ごめん、今日早く行く日だったっけ」と、問われてしまった。

「あ、いや…早く、準備できたんで、出てきただけです」

「そっか、あ、ごめん、中で待ってて」

シャコシャコと小気味よい音をたてながら、まだパジャマ姿の孝成さんは俺の手を引いた。
朝の、けだるげな空気を纏いながら、それでもこの後顔を洗って着替えを済ませたらいつものしゃきりとした彼になるのだと思うと無性に抱きしめたくなった。下手くそに制服を着ていても、眼鏡を上下さかさまにかけようとしていても、何故がシャキッとして見える孝成さんとは違う、無防備な。

「孝成さん」

「ん」

「歯磨きしながら歩き回るの危ないですよ」

「はは、そうだね。ちょっと待ってて、着替えてくるから」

玄関へ続く庭を抜け、中に入ると朝食らしい匂いが漂っていた。孝成さん自体に生活感を感じないせいか、そんな些細なことでもやっぱり触りたくなって俺を掴んでいた手が離れようとするのをとめた。

「、どした」

「……」

「口ゆすいでくるから、ちょっと待ってて。待てるよね」

「…はい、」

「いい子」

前髪に触れ、そのまま耳元まで柔らかく俺を撫でた孝成さんは言葉通りすぐに口をゆすぎ、ブレザーとネクタイを片手に戻ってきた。シャツは体に引っ掛かっているだけで、全然着れていない。黒いピタリとしたインナーが丸見えで、引き締まったそのラインが綺麗に出てしまっている。

「孝成さん、制服…」

「葉月」

「…は、い」

「情けない顔してる」

「それ、高見先輩によく言われます」

孝成さんは小さく微笑んで俺の頭を撫でた。
元気がないのは事実でも、何かあったわけではない。俺には関係のないこと、だ。それを孝成さんに話したって孝成さんにはもっと関係のないことなわけで。目の前の孝成さんはそれ以上何も聞かないで、そのままゆっくり俺を抱きしめてくれた。




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