09


「葉月も気を付けなよ」

「……」

「タカナリさんに迷惑かけないように」

「かけねーよ」

透の負けず嫌いは孝成さんといい勝負だ。もし孝成さんが透の立場だったら…ここで終わってしまったら、孝成さんの“最後”という言葉の重みはどこに消えるのだろう。そうだ、孝成さんの言い方は、まるで“バスケ”自体が最後みたいな、そんなニュアンスに聞こえた。大学ではもうやらないのだろうか…俺と孝成さんを唯一繋いでいるものがなくなったら、俺はどうするんだろう。
孝成さんよりずっと長く一緒にコートに立っていた透とは、きっともう同じユニホームを着ることはない。それでも着ていたときは透と違うチームになったらどんな感じなのか、と漠然と考えていた。この一年で、敵であることに慣れてしまったということは…あんなに泣きたいと感じたのは、まさにこれかもしれない。
唯一のバスケをどちらかが手放してしまえばもう、あの手には触れられなくなる。それが、俺は悲しいのだ。寂しくて、“失恋”みたいだと思ったのだ。

帰ったら透に電話をしようと決めて、けれど同じくらい孝成さんにも会いたくて、もどかしくなった。

「なに葉月まで落ち込んでんの」

「落ち込むだろ、普通に」

「とーるちゃん、葉月に何て言おうって感じだったよ」

「はあ?なんで」

「だって葉月、とーるちゃんが高校決めたとき微妙な顔してたじゃん」

「したつもりないけど…いや、うん」

微妙、というよりはわざわざ県外に行くならもっと強いところに行けばいいのに、と思っただけだ。その当時ほどバリバリにやるつもりがなかったのなら普通に学区内の学校でも構わないのでは、と、そう思っただけだ。もちろんできれば同じ高校に通えれば良かったけれど…
そう考えると透とは十年近く一緒にバスケをしている…それに比べたら孝成さんと過ごした時間はその十分の一ほど。長い差があるはずなのに、俺はもう孝成さんの居ないコートが想像出来ない。

「まあ、連絡してみてよ」

「おお…てか、香月さ」

「なに」

「透のこと好きだったっけ」

「はあ?」

「いやだって俺を差し置いて連絡取ってんだろ」

「葉月がしないからじゃん。とーるちゃんいっつも葉月のこと気にしてるよ」

「それこそ意味わかんねぇ」

「勉強ついていけてるかとか」

「透がそんなこと心配するわけないから」

「体大丈夫かなとか、先輩と上手くやれてるかなとか」

「……」

「葉月中学の時先輩とめっちゃ言い争ってたじゃん、高校でも同じことになってないかーって」

「なってねぇよ」

「って言っておいたよ。先輩のこと大好きで出来ない勉強毎日文句言いながらもやってるし、部活も頑張ってるって」

「いいよ俺の話はもう。今は香月が透のこと好きかどうかを聞いてんの」

「好きだよ当たり前じゃん。幼馴染だし」

あくまで“幼馴染”として、というニュアンスで呟いた香月は、少しむっとして俺を見た。
幼馴染、というよりは三人兄弟、みたいな。俺としてはそんな感覚だった。香月を男だと思っている時点でそれはまあ、仕方がないのかもしれないけれど。



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