02


「で、まあことがうまく運んで葉月が入ってきて良かったなって話。正直、孝成だけじゃなく先輩達もお前が入るって分かったときは喜んでたぞ」

「葉月は地元の有名人だったもな〜」

「そうそう、だからまさか強いからってこんな近所の高校選ぶとは思ってなかったんだよ」

孝成さんが居たから、とは言わないでおいた。
他の高校を蹴ってここにきたそれなりの理由はと聞かれたら、自宅からの通学が可能や学費免除などいくつも答えは用意していたからだ。あと、うちを卒業となればそれなりに聞こえもいい。それもあるかと問われれば曖昧に頷くくらいはするつもりで。

「じゃああれっすね、両片想い」

「なんだそれ」

「葉月は昔からずっと部長にお熱だったんですよ、部長も気になってたなら、両方片想いで両片想い」

「…こいつなに言ってんの」

「馬鹿なんで俺にも分かりません」

「なんで!?」

加藤は俺の二の腕を思いきりつねって「葉月新一年から怖がられてるからな!」と鼻で笑って言った。

「加藤みたいに舐められるよりマシ」

「待って、俺葉月より賢いはずなんだけど」

「それは今関係な─」

「葉月」

着替えを終えてなんとなくベンチに座っていた俺の前、鞄を肩にかけて立っていた加藤が反射的に背筋を伸ばして振り返った。高見先輩は几帳面に畳んだ練習着を袋に入れ、それを鞄に押し込んだところだった。他にも数人が残っていた部室は孝成さんの声で瞬間的に空気が引き締まった気がした。

「はい」

「良かった、まだ居て」

穏やかな声で部室に入ってきた孝成さんは、そんな残っていた何人かに「お疲れ様」となんとも律儀に溢しながら俺の前まで来た。それに加藤が一歩横にずれ例に倣って「お疲れ様です」と声を張る。
“まだ居た”なんて、わざわざ口にするところがずるい。孝成さんに黙って先に帰ったことなんて今まで一度もないのに。

「お疲れ様」

「どう?新入部員は」

「みんな良い子だよ」

「すげー信用できねえじゃん」

「あはは、なんで」

俺の隣に腰を下ろしながら、高見先輩へ「推薦の三人は難しそう」と溢す。そのままバッシュの紐を緩めて左右違う靴下が露になった。着替える時点で気づいたものの、持ってきていたものが左右違ったのだからどうにも出来ず、そのままバッシュを履いたのだ。履いたら見えないよねとなんともずぼらなことを言いながら。

「レベルが高いから」

「んーまあ…葉月みたいなのだったらちょろいけどな」

「どういう意味ですか」

「いや、良い意味だって。お前みたいに実績残した強豪校から来て、ちゃんとレベルも伴ってるしタッパもある。先輩見下しておざなりになるかもなって不安が最初はあったわけ。つーか毎年それはあるんだけど」

「葉月は素直で可愛いから良かったってことだよ」

「そうそう、孝成に従順でほんとに有難い」

加藤はニヤニヤしながら「俺お先に失礼します」と部室を出ていった。

「孝成も葉月が来てからちょっと変わったしな」

「えっ、」

「前はもっとしっかりしてたんだよ。靴下左右違うとか寝癖直し忘れるとか、まあそういうのは日常茶飯事だったけど 。今ほど酷くなかった気がする」

「変わらないよ」

「いやいや…まあでも、それ以外は怖いくらい上手くいってるから、その反動なのかもなー。よし、俺も帰ろ。葉月、鍵よろしく」

「、はい」

「あと、さっきのこと孝成には言うなよ」

「あ、はい」

「まじでべらべら喋んなよ」と、念を押して高見先輩が出ていくと、それに続いてみんな出ていってしまった。





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