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四月、無事に進級した。

会議で名前が上がることもなかったとあとから顧問に聞いて心底安心した。三月末には合宿ですべて搾り取られるほどバスケと勉強浸けにされてさすがに疲れたけれど、夏の合宿よりはるかに楽しく過ごすことができた。そんな春休みが明けてすぐ、学校は新しい生徒を迎え入れて賑やかな雰囲気に飲み込まれた。入学式から一週間は部活の見学や体験期間で…既にそこから何人かは練習に参加していた…その翌週、バスケ部にも新入部員がずらりと並んでやってきた。

全国的に見ても有名なうちの高校は、けれどやっぱり学力が伴わなければ学校にさえ入れない。俺みたいに推薦や特待で入ってきた部員は三人で、それこそ聞いたことがあるような有名な中学や、自分の母校から来ていた。

「部長の水城孝成です」

よろしくと頭を下げた孝成さんに、整列していた頭が一斉に下げられる。新入部員は30人。強豪高にしては圧倒的に少ないかもしれないその数も、一ヶ月後には更に減ることが見込まれている。それくらいには厳しいし、何より勉強との両立が難しい。それを覚悟で入ってきたのが何割なのか、予想も出来ないけれど一人一人の自己紹介に耳を傾けた。

「いやー、今年は何人残るかなってとこだよな」

「高見先輩次第じゃないですか」

「はあ?孝成次第だろ」

「あ、高見先輩孝成さんにまた雑誌見せましたよね」

「ああ、あいつ雑誌とか見ねぇから。今月も可愛い可愛い葉月くんがピックアップされてたから見せただけ」

「いや、葉月その度に、部長に見たよって言われるの楽しみにしてますからね」

「加藤」

「ほんと可愛いなお前。葉月も入ってきて丸一年か〜」

新入部員を迎えたその日は少しのミーティングのあと、軽い練習だけで部活は終わった。去年もそうだったけど、この時点から顧問とマネージャーによる“査定”が始まっている。技術的な面というよりは、メンタルや体力、あとはやる気的な面の。

「あ、そういえば、お前がうちの高校入るって決まった時点で、孝成の奴楽しみにしてたんだぞ」

「えっ、」

「いやお前そこそこ有名だっただろ、中学も全中常連だしそこで活躍してたんだし。だから俺らもおお!って思ったわけ」

しかも、と続けた高見先輩は俺が全然知らなかったことを告げた。

「いつだったかな、練習試合か公式戦か忘れたけどお前の学校の試合見たんだよ、たまたま」

「え、中学のときですか?」

「そう。ほら、体育館がさあそこの…」

「市の体育館?」

「そうそう、そこ使ってたとき。ちょっと覗いたんだよ。そしたら孝成、お前のこと見て“あの背高い子うち来ないかな”って」

「言ったんですか?部長が!?」

「なんで加藤が興奮してんだよ」

「いやだって、こんなに勉強できないってこと知らないのって怖いと思って」

「そこかよ。俺は孝成がそういうこと言ったのにも驚いたし、そもそも興味あったのかって。次の日にはしっかりリサーチしてたし」

「高見先輩」

「ん?」

「なんでそれ一年黙ってたんですか」

「今思い出した」

「はぁ…俺それ最初に言われてたらモチベーション全然違いましたよ」

「いやお前、あれ以上高まられてもうぜえから」

あっけらかんと、孝成が孝成がと衝撃的なことを口にする副部長に少々腹が立ったものの、そんな事実があったとしたら嬉しい。…嬉しい、のだろうか…
胸が熱くなって、今すぐ抱き締めたい、の方が正しいだろうか…





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