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「今年の注目選手はなんと言ってもアメリカから帰国した藤代選手ですよね、見えますかね、ひときわ大きな七番のユニフォーム姿の選手なんですが─」

日本とアメリカの違いは、きっと前にいくつか並べたことがある。圧倒的な違いとして、今最も感じているのはバスケへの関心の差。コートを映すカメラがぐるりと向きを変える。客席は埋まりつつあるものの、やっぱりどうしたってサッカーや野球とは違う。広い体育館の客席を見上げて視線を流すとすぐに彼を見つけることが出来た。いつだってそうだった、どれだけの人混みの中でも孝成さんを見つけ出すことは容易で、試合前の高揚感を煽るように孝成さんが俺に軽く手を振った。
まるでそこだけが切り取られたように他の人も物も見えなくなり、ひくりと喉が震えた。

「葉月」

「……」

「おい葉月」

「っ、はい」

「集合」

「はい」

「注目されてるからって浮かれてんなよ」

「すみません」

「まあ、お前のユニフォーム着て最前列にいる孝成の方がよっぽど浮かれてるけど」

「やっぱり浮かれてますよね」

「あんな孝成見たことねぇよ」

ほら話聞けよ、と軽く背中を叩かれ、意識はすぐにバスケに戻った。高見先輩はそんな俺をチラチラ見ながら…おそらく俺のこともまだ浮かれてやがるとか思っていたんだろう…何度か肘で脇腹をつついた。
監督は話を終えると俺の前に来て「インタビューの記事見たけど、お前喋り方片言だったぞ」とこれまた背中を叩かれた。
片付けられたアパートにあった唯一の雑誌には、俺が日本に帰ることになってから受けたインタビューが載っていた。


“アメリカから日本へ、下した決断”
大きな舞台に立つまでの苦労や努力、そこから日本へ戻るまでの苦悩、話したいことはたくさんあって、けれど、そこに至るもっと前に、自分を作り上げた全てがあるんです。物心着く前にバスケを始めて、ある人に出会うまで、その人を追い越すまで。本当にしたい話はそこにあって。
それはたった一人の先輩だったこと、その人と出会えなかったら今の自分はないんです。それを、今日は胸を張ってお話しできたらなって。憧憬と恋慕は、区別が難しいんですよ。

見出しは、冒頭より大きな文字で“先輩についての話をしよう”と綴られた。


先輩についての話

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