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テスト明けの部活は三人ほど一年生が離脱していた…補習で…以外、特に変わったことはなかった。きついメニューを淡々とこなし、少し早めに切り上げてあとは自主練習。ほとんどの部員が帰っていった中で、孝成さんは一人スリーポイントラインからシュートの練習をしていた。

今まで見たどんなシュートより、孝成さんのシュートは綺麗だ。寸分の狂いもなくボールはゴールに吸い込まれるし、膝を曲げてからボールが指を離れるまでの流れはプロの試合を見るよりもドキドキする。試合中孝成さんがシュートを打つ率は低いけれど、それでも決まる確率は九割。フリースローなんて外したところをみたことさえない。目を瞑っていたってゴールの位置が分かるくらい練習していることは知っているけれど、それでも試合中鳥肌がたつ。

「葉月」

「、はい」

「残ってるならインターバ─」

「しません。ボール拾いします」

「ありがとう」

スリーポイントラインに沿って一歩ずつ横にずれ、放たれるボールをゴール下で掴まえてパスを出す。
一定のリズムで、全くブレのないシュートだ。

「あっ、鳥が入ってきた」

「……」

「はは、そんなことじゃブレないですよね」

返事の代わりにスパッとネットの揺れる音が響く。
どこから打っても、ボールは狂い無く俺の手に落ちてくる。どうしてそれに泣きたくなるのか分からないけれど、無性に泣きたくなった気がした。俺のどんな言葉にもブレない孝成さんみたいだと思ったのか、何があっても変わらない孝成さんそのものだと思ったのか。

「すみません、トイレいってきます」

「葉月」

「、」

「ラストだ」

「…はい」

最後の一球も同じだった。リングにさえ当たらないですとんと落ちてきたボールを返すと、孝成さんはそれをカゴに押し込んで俺の手をとった。

「行く前に剥がして」

差し出された右手、テーピングを施された固い指が俺の指先を撫でた。

「剥がすやつ、部室じゃないですか」

「うん」

「もう帰りますか?」

「葉月が帰るなら」

「……」

まだ数人残っている。
自主練習だから最後の人が戸締まりをすればいい。いつも当たり前みたいに俺と孝成さんがしているそれは、もうほとんど習慣だ。

「部室行きましょう」

マネージャーが畳んでおいてくれたそれぞれのジャージを掴み、部室のある棟に入る。トレーニングルームやシャワールームが上の階に完備されているその棟はほとんどバスケ部の為のようなものだ。圧倒的にバスケ部が有名で、なんでも優先的に使わせてもらえている。
そんな上にはいかず、真っ直ぐバスケ部の部室に入って孝成さんを座らせた。本やDVDの立てられたラックから孝成さん用のテープリムーバーみたいなものをとり、俺もその隣に座った。

「変な感じ」

「はい?」

「こんなに明るいうちに帰るって、部活がない日みたいだなって」

「そうですか?」

「せっかくテスト終わったのに、もう帰るのか」

「もうテーピングとっちゃいましたよ」

「残念」

「……孝成さん、今回も一位だって…」

「高見?」

「はい」

「お喋りだな〜」

全然気にしていない風に笑い、テープがほどかれ軽くなった指をぎゅっぎゅと曲げた孝成さんは「トイレ行くんじゃないの」と腰をあげた。ついでに手を洗いに行くからかと、今になって分かった。けれど俺は十二分に期待していて、それを察したみたいに孝成さんが微笑む。「テスト、終わったからね」と、意味深に。




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