08
「胸を張って、堂々と…今やっと、言えることがあるんです。孝成さん」
「はい」
「好きです、世界で一番。孝成さんが今幸せなら俺は嬉しいです。でも…横から孝成さんの腕を引いて、一緒に居てくださいって言う勇気と、自信はあります」
「俺は今幸せだよ」
「っ……」
幸せだと、僅かに目尻を下げた彼の白衣の裾が風に舞う。
そうか、孝成さんの顔が穏やかだから、俺も穏やかだなんて感じたのか…一世一代の告白は、そんなもの簡単に隅へ追いやり、心臓が急停止しそうになるのを感じた。
「多分、人生で一番」
「……分かりました…でも─」
「葉月が俺のところに帰ってきたから」
「……え、」
「待ってられないって言ったのは、本当に、葉月がずっと帰って来なくて良いと思ったから言ったんだ。葉月がバスケを好きなのも、アメリカに行きたいって思ったのも、俺が制限をかけれることじゃない。どこでもいい、葉月が元気に、楽しく好きなことをしてくれていれば、俺はそれで幸せだと思ってた」
「ま、待って、あの…」
「どこかで誰かと幸せになってくれればいいって。本当に思ったんだ。…でも、十年ずっと葉月を忘れられないで、その葉月が今も俺を好きだって言ってくれるんだから、今が一番幸せだよ」
穏やかな表情のまま、孝成さんの目が赤くなる。俺の手をそっとほどいた彼の指先はじんわり暖かくて、赤くなった目に浮かぶものを見つめると、それが息をのむほど綺麗に落ちた。
一度も見ることのなかった、孝成さんの涙だ。束になった睫毛が揺れ、自分でも泣いているのに驚いたのか慌てて指で目頭を押さえた。
「葉月が、今でも大事なんだ」
「大事な、だけ…ですか?」
「アメリカでは、こういう時なんて言うのが正解?」
「……I love you」
「はは、上手くなったね、英語」
「た、孝成さん」
「愛してるよ」
一瞬で何もかも奪われてしまったような感覚だった。濡れた頬の温度を確かめて、ひき寄せて、思い切り抱き締めると、好きで好きでたまらない気持ちが胸から溢れて、涙になってぼろぼろ落ちた。
back next
[ 182/188 ]
>>しおり挿入
[top]