03
双子だから、と比べられることはほとんどなかった。
「デブ」
「ブス」
「はあ?同じ顔じゃん!!」
バスケに関しては男と女、という仕切りがあったからかもしれない。圧倒的に葉月にはセンスがあったのに、周りからは「二人ともすごいね」と言われて育った。勉強は幸いにも自分の方が出来た。でも、勉強が出来ないはずの葉月が、推薦とはいえ県内屈指の進学校に進んだ。そこで苦労していようと、外から見ている人間には知ったことじゃない。だからそこでも「二人ともすごいね」と言われた。
本当はなにも凄くないし、男女の双子なんて喧嘩ばっかりだし、学年が上がるごとに体格の差が生まれて、殴り合いでもバスケでも葉月には勝てなくなった。それが心底悔しくて、女の子の中に居れば大きいスタイルが良いと言ってもらえるのに、葉月と並べば「チビ」と言われる。
正直、自分は男なのか女なのか、バスケが好きなのか好きじゃないのか、自分でも分からず曖昧だった頃がある。
「葉月、謝りなさい」
「……」
「先に手を出した香月も」
「……」
「いい?絶対自分から手を出しちゃいけないし、出されたからってやり返すのもダメ。何より、女の子には何があっても手をあげちゃいけない。葉月、わかった?」
喧嘩をして殴って殴られてを繰り返すうち、母親が一度だけそう怒ったことがある。その時わたしは「ああ、女の子なんだ、自分は」と思い、葉月はそれ以来本気で殴り返すことがなくなった。
そんな懐かしいことを、ネットのニュースを見ながら思い出した。
「ハーフモデルと撮られるとか生意気」
すらりと長い足を強調するようなタイトなデニムに、丈の短いキャミソールみたいな胸元がセクシーなトップス、薄手のロングカーディガンみたいなものを羽織った写真の中の女の人の横には見慣れた顔。藤代葉月という名前と、ハーフモデルの名前。何月何日、撮影で訪れたアメリカで…という書き出しで始まるその記事には、二人が深夜に落ち合い食事をしたあと宮城ルイの宿泊先であるホテルに消えた、という旨が記されている
なんだそのギャグはと、わたしは思わず笑ってしまったけれど、世の中は人気モデルの熱愛に沸くのだろう。二人が付き合っているなんて話は聞いたことがないし、そもそも葉月にそんな度胸があるとは思えない。けれど、場所はアメリカ、写真の中の男性は紛れもなく双子の兄。恋人の距離にしては少し離れているけれど、ホテルに入っていく後ろ姿はバッチリ写ってしまっている。
「送ってっただけに五万」
「まだ葉月の記事見てんの」
「だってさあ、ありえなくない?ルイちゃんだよ?めっちゃ可愛くてスタイルよくてずっと好きだったのに〜。葉月はメッセージ返ってこないし電話も出ないから確かめらんないし」
「そっとしといてやれよ」
「こっちではルイちゃん有名だし騒がれて大変だろうけど、葉月は別にそうじゃないじゃん。芸能人でもないし」
とーるちゃんは心底面倒くさそうに視線を落とし、カタカタとキーボードを打った。パソコンの画面では動画や写真の編集が行われており、とーるちゃんは器用にそれを繋げて音楽を合わせ、テロップを入れ込んでいる。
わたしには何のことだか、って感じだけど、これは花嫁へのサプライズムービーらしい。
「香月も手伝ってくれてほんと助かった」
「さすがにアメリカはね、軽々しく行けないしね。あ、そうそう、それ撮りに行ったときは何も言ってなかったんだよ葉月」
「もういいって。うわ、葉月ほんとでかいな」
「とーるちゃんの倍くらいあるよ」
「まじでありそう」
とーるちゃんはもうすぐ結婚する。
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