03


俺のアメリカ行きは三月。二年が修了するのを境にその年の九月から向こうの大学へ行くことが決まった。俺は少ししかない荷物を時間をかけてまとめ、大きなスーツケースとリュックが一つずつ。送る分の荷物は段ボールに二箱しかなかった。向こうでは寮で生活することになっており家具家電はほとんどいらない。それこそいつものことだけど、大した荷物がないのだ。布団さえもいらない。

孝成さんの隣の部屋に畳んで隅に追いやった布団は、俺が出て行ったらもう、必要のないものになる。布団だけじゃない、持っていかない俺のものは全部、不必要なものとして孝成さんの中で分別されることになる。

「おはよう」

「おはようございます」

「寝癖ついてるよ」

「……」

「もっと後ろ、ここ」

「ん…」

「直しなよ、俺もう出るから」

「いってらっしゃい…」

「はい、いってきます」

俺は孝成さんより一足先に休みに入り、数日後、ここを出ていくまで何も予定がない。会いたい人やアメリカ行きを報告したい人にはきちんと連絡をして、バイトは辞めた。体が鈍らないようにジムには通うけれど、それ以外は何もないし、する予定もない。孝成さんが大学に行くのを見送って、帰ってくる頃に晩飯の用意をする以外は、本当に何も。

今日を除いてあと三日。貼られたカレンダーの、今月の終わりにつけられた印の日まで。

あと何回寝たら、と数えなくても分かるようになってしまった。孝成さんは別れ話をして以来、本当に何も変わらないで接してくれた。
俺の英語の勉強も手伝ってくれて、それはもう、楽しくて…別れるなんてきっと夢だったんだと、思ってしまうほど。

はあ、と孝成さんが消えた玄関のドアを見つめながら落とした溜息は、自分の口の中で溶けて消えた。




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