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「孝成さん!」

「おはよう」

「おはよう、ございます…あの、大丈夫ですか?」

「聞いてるだろ、ただの寝不足」

「でも、」

「もう少し早く寝ることにする。葉月まだ寝てて良いよ。早いでしょ」

「……」

「なに?」

けろっとした顔で、体調が悪い素振りなんて見せないのが逆に、とても悲しく思えた。その瞬間に、俺がこの人から離れたら今朝みたいに限界がきたときどうするんだろうとか、誰が寝癖ついてるとか毎日見るんだろうとか、そんな不安ばかりが浮かんだ。

そうか、迷う理由の一番はそこなのか…
まだ起きるには少し早いけれど、眠る気にはなれず体を起こした。もう見慣れた、殺風景な孝成さんの部屋。無駄を排除した、シンプルすぎる彼の寝室で、俺はきっと寝ぼけた顔をしていただろう。それでも、その場に正座して言わなければいけないことがあると、切り出した。

「改まってなに?」

「いいから、ちょっと座ってください」

「はい」

「孝成さん」

「はい」

離れることが不安、なんてそれっぽい言葉を宛がっていたけれど、単純に俺は孝成さんから離れたくないだけなんだ。好きだから、どうしても。

「……」

「なに?」

俺の正面に同じように正座した孝成さんは、今にも泣き出しそうな俺の腕をやんわりと擦って言葉を待ってくれた。息を整えて、しっかり目を見て、唾を飲み込んで、やっと唇を開くのを。

「俺、アメリカ行きます」

く、と孝成さんの唇が一瞬震えた。
でも、彼が何か言うより先に「言うのが遅くなってすみません」と続けた。それから経緯やこれからの話をして、孝成さんの喋る隙を与えないままいつも起きる時間になった。

「ご飯にしましょうか」

「葉月」

「、はい」

「おめでとう」

「……ありがとう、ございます…や、でもあの、孝成さんのことも心配ですし、時間が出来たら帰って─」

「別れよう」

「……え?」

「葉月がアメリカに経つ日までに」

「え、あの、別れるって…」

「時間だ。ご飯にしよう」

「孝成さん!待ってください、なんでそうなるのかちゃんと」

しなやかな動きで立ち上がった孝成さんを引き留め、自分でも引くくらい大きな声を出した。あ、と思ったときにはもう遅く、慌てて自分の口を押さえた。
今の話のどこに、別れ話の要素があったんだろう。離れるから、これまでの短期間の遠距離が、もっと長く続くことが原因なんだろうか…それを確かめたくても、孝成さんは帰ってきたら話そうとさっさと朝食の準備を始めた。

「待ってくださいってば、まだ話─」

「夜までに考えておいて」

「はあ?」

「俺も、ちゃんと考えるから」

「孝成さん、ちょ、ええ?俺…」

何を、考えろと言うのか…
表情一つ変えないで、この人は何を言っているんだろう。頭の中は“別れよう”の一言で一杯で、自分で考えたって答えなんて出ないし、孝成さん相手に口で言い負かされない自信もなく、本当は大学どころではなかったけれど何事もなかったように振る舞う彼に聞き間違いだったのでは、と思えるほどだった。




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