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「あの、ご迷惑をお掛けしました…寝不足と疲労が原因って聞きました…本当にごめんなさい」
「いや、あの、俺の方こそ…その、気付かなくてすみません」
「葉月さんが居なかったら、倒れても目が覚めてから普通に過ごしてたと思います…」
いやそこまですっとぼけてはいないのでは、と思ったけれど確かに孝成さんなら寝ちゃってた、とかそのくらいにしか思わなくても不思議ではない気がした。
明日香、と名乗った孝成さんの妹は本当に申し訳なさそうに何度も頭を下げ、お礼の言葉を口にした。
「葉月さんのことはお兄ちゃ…兄から、聞いてます。こんな形ですけど、会えて嬉しいです」
「いえ、俺の方こそ…」
「ずっと会ってみたいなって言ってて…兄みたいなダメダメな人とルームシェア出来るってすごいから…高校の頃から話は聞いてましたけど、すごく面倒見がよくて優しい人なんだろうなって、思ってました」
「いや…俺が単純に孝成さんに…」
「昔からそうなんです。勉強とかクラブとか…委員会とか、そういうことは完璧にこなすのにどっか抜けてて…家でもずっとそうで」
想像した孝成さんの妹はこんなに小柄でも初対面で良く喋るタイプではなかった。けれど、孝成さんが抜けてるといいながら慌ててきたのか彼女の柔らかそうか髪は跳ねていて、やっぱり良く似ているように思えた。話を聞いたことしないけれど、少なくとも二人のお兄さんより孝成さんと妹は似ているんじゃないだろうか。
カーディガンを羽織っていてもその腕の細さや、首の頼りなさは目に見えていて、その首元で揺れる髪が印象的だった。
「無理するのも昔からで…はぁ、もー…人の心配ばっかりして自分が倒れるなんて…」
「わりとすぐ風邪もひく、よね」
「そうなんですよ、ほんとに。無理してるって感覚がないくらい無理してるから…おばあちゃんの家に居た頃も良く様子見に行ってたんです」
「聞いたことあります」
「わたし、二十歳まで生きられないって言われてて」
「……えっ!?」
「だから、家の中ではわりと自由にやらせてもらえてて」
「え、ちょっと待って、」
「兄から聞いてませんか?」
「聞いてない聞いてない」
それは唐突に、何の脈略もなく告げられた。それは、病院、という場所だからかとても現実味があった。けれどあまりにも突然で、しかも初対面の相手にそんなことをさらりと言うものかと受け入れるのに時間がかかった。
ただ、「生まれたときから病気で。うちは両親が医者で、兄三人も医者になる為に育てられて、たぶん他の家庭とは違ったと思うんです」と続けられた話は黙って聞くしかなかった。
聞いて、ああ、だから孝成さんは、自分の気持ちを押し殺してバスケを手放したのかと、納得するしかなかった。
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