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起き上がろうとした彼を止め、腕を引いて自分の胸に収めると「暑い」と小さく笑われた。

「もう少しだけ、ここに居てください…課題の、邪魔はしないので…」

「あはは、甘えん坊になって帰って来た」

「会いたくて仕方なかったんですよ」

「俺も」そのたった一言が欲しくて、抱き寄せ孝成さんの額に唇を押し付けた。

「俺のことは考えないって約束じゃなかった?」

「……」

「も〜」

「ごめんなさい」

小さく笑いながら俺の顔に触れ、そのまま撫でた頭が気持ち良い。起き抜けの少し高い体温と、シャワーを浴びたのかふわりと香ったシャンプーの匂いがどうしようもない気持ちにさせ、俺は堪らず「好きです」と呟いた。

「はづき」

「、はい」

「俺も好きだよ」

「……はぁ〜…」

「あはは、なんでため息つくの」

「ずるいんですよ、孝成さんは」

機嫌良さげに綻んだ顔にもう一度キスをして、鼻先を甘く噛むと今度は孝成さんからキスが落とされた。柔らかい唇の、優しいキスだ。

「名前呼ばれるだけで、堪らなくなるんです。向こうではフジって呼ばれてたから」

「フジ?」

「ふじしろのフジ?」

「ああ〜」

「やめてくださいね、孝成さんまでフジって呼ぶの」

「呼ばないよ」

真夏の部屋でクーラーを効かせて布団に潜り込み、好きだ会いたかったと囁いて、孝成さんに何度も名前を呼ばせて。

思えば、その時が一番幸せだったのかもしれない。曖昧な関係から恋人になり、唇を肌を重ねて一番近くに居られて。俺はバスケをして、孝成さんは本当にバスケからは離れてしまったけれど、それでも俺のことを応援してくれたし、何かあれば一番支えてくれる存在で。ただ、その一番幸せな瞬間は、もうその時から少しずつ亀裂みたいなものを作っていたなんて、後から考えても分からなかった。

夏の終わる空気は孝成さんが引退した夏から苦手で、けれど孝成さんともう一度迎えた夏は、とても印象に残った。
随分過ぎていたけれど俺の誕生日を祝ってくれて、夏休みが終わる直前に二人で少し遠出をして楽しいものに塗り替えられたのだ。これまで夏は試合や部活でとにかくバスケ漬けだったから余計に、記憶に残るものになったのだろう。




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