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「あ、はい」
「勉強サボってた?ワンコールで出たけど」
「えっ、まさか!ちょっと休憩してて、ちょうど携帯手に持ったとこでした」
「そっか、じゃあタイミング良かったんだ」
「はい」
「俺も、少し休憩しようと思って」
「孝成さんでも、そういうのあるんですか」
「当たり前。葉月の声聞いたら、頑張れそうな気がしたから」
「あぁー、も〜…孝成さんのそういうとこ、ずるいですよね」
「はは、ごめん、邪魔して」
「いえ、大丈夫です。俺も…」
孝成さんの声聞きたかったですと、自分でも笑えるくらい小さな声で返すと孝成さんはまた笑って「タイミング良かったな」ともう一度口にした。
「ちゃんと勉強してるか」
「はい…」
「葉月が頑張ってるのはちゃんと知ってるから、あんまり根詰めなくていいよ」
「はい」
落ち着いた声だ。
少し籠った、けれど試合中とてもよく通る声。
「孝成さん」
「ん?」
「…ありがとうございます」
「俺の方こそいつもありがとう」
「……ふはっ、何ですかそれ」
「今そういう雰囲気だったんじゃないの」
「いや、まあ…じゃあそういうことでいいです」
電話越しの小さな笑い声がもどかしい。孝成さんが会話の流れで笑うのなんて結構貴重だ。いつだって穏やかな顔をしているけれど、だからこそ頬が緩んで口角が上がるのは見逃したくない。
手元に広がる対策問題集の文字を指先でなぞりながら、彼が今どんな顔をしているか想像して胸が熱くなる。今隣に居たら、もどかしくて泣いていたかもしれない。孝成さんの手がそこにあったら、きっと、握っていた。
それじゃあまた明日と、電話を切る時だって「俺が先に切っても良い?」なんてことを聞かれてはどうにもならない。孝成さんに電話を切られる音なんて俺だって聞きたくないけれど、笑って、いいですよと答えるしかなかった。
「おやすみなさい」
「おやすみ」
プツ、ツーツー…
その寂しい音を確認して、携帯を閉じた。
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