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アメリカにはきっかり十日…行き帰りを含めて多分プラス二日…ホームステイ先では食事に気をつかわれたのか、ジャンクなものはあまり出なかった。おかげで体型の心配はクリア。ただ、外で食べれば日本とは全く違ったカロリーと量、自分の体質では気を抜けばあっという間に体重が増えることになりそうだった。
それから心配していた言葉の壁はバスケ以外の面ではやっぱりそこそこ厚かったし時差ぼけもした。
バスケはこっちの大学の練習に少し参加させてもらっただけだけど、日本で騒がれてたなんて気のせいだったように思えるほど何もかもが違って新鮮だった。日本人にしては背が高くて体格がいい、それくらいの認識しかされなかったし、それをもってしても戦車みたいな体型の選手には「貧弱」に見えたのではないだろうか。
誰も知り合いのいない環境で、孝成さんとの連絡手段はメッセージだけで、電話をする勇気はなかった。考えるな、と言われたくせに朝起きたらまず、「あの人ご飯食べてるかな」と無意識に考えていたし、バイトや大学には無遅刻無欠席だとしてもすっとぼけてるから何もかもが心配で、隙あらば孝成さんのことばかり考えていた。
「フジ」
「、建部」
「このあとみんなで飯行こうって話してたんだけど、フジも行こうよ」
唯一、在籍していた日本人である建部は、中学からアメリカに住んでいるらしく英語もペラペラ。彼のおかげで他のチームメイトとも打ち解け、なんとか練習が出来た。
そんな建部がみんな、と指差した先で「レッツゴー」と…発音は真似できない…数人が手をあげた。
「ああ、うん、行く」
「よし、じゃあ行こう」
藤代葉月、と普通に自己紹介をしたら最初の二文字で呼ばれるようになった。最初はなかなかの違和感を覚えていたはずなのに、三日もしたら慣れてしまったし、「葉月」と、孝成さんからのメッセージで書かれているのを見ると妙にドキドキするほどその感覚を忘れてしまっていた。
何度かご飯に誘ってもらったり、バスケの練習とは別にストバスもやらせてもらった。その中で建部は、去年俺がインハイ、国体、ウィンターカップで優勝したチームにいた、ということを知っていると話してくれた。今、高見先輩や前橋が大学で活躍していることも。
「今日はフジの送別会だよ」
「え、いいよ、俺少し居ただけだし」
「いいからいいから。明日はもう来ないんでしょ?」
「ああ…」
「どうだった?こっちは。楽しかった?」
楽しかった、と答えながらチームメイトの輪に入り、今夜はパーティーだと楽しそうな声に耳を傾けた。英語は相変わらず全然だけど、聞く分にはなんとなく、何を言いたいか、くらいは分かるようになった。気がする。細かいニュアンスやシャレは全く分からないけれど、まあそこは今回大した問題ではなかったし良しとしたい。
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