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「でも、孝成さん」

「うん?」

「旅行、のつもりなので、その…お土産くらいは買ってきても、いいですか?」

「…はは、そっか、なるほど…うん、楽しみにしてる」

「あ、あと、これ余計なお世話かもしれませんけど、家でる前に鏡見てくださいね。寝癖と歯みがき粉ついてないか。あと、靴履く前に靴下左右あってるかも。お金出すときは慎重に、特に小銭。ぶちまけたら速やかに拾ってください」

「母親みたいなこと言うな〜 」

「本気で心配してるんですよ!改札で定期じゃなくて掌だけのせたりするし、あとドア!押す低く自動手動よく見てくださいね。ぶつかると危ないから」

「はいはい」

ありったけの心配事をぶつけた俺に、孝成さんは聞いているのかいないのかはいはいと嬉しそうに何度も頷いた。これ分かってないなと、ため息をつけば「大丈夫大丈夫」と全く説得力のない言葉。
そんな孝成さんが丸ごと全部好きで、自分が隣に居れば喜んで何だって手伝うのに。離れることがただ寂しいだけではなく、こんなに心配になるものなのかと、軽く頷く彼に思った。

着替えともろもろ必要なものを押し込んだ大きなスーツケースには、帰りにお土産を入れるくらいのスペースが残っていた。入らなければ送ることだって出来るのに、そんなことを考えたのはきっと、俺は荷物が増えることなんてないと思っていたからだ。事実、夏休みの二週間、滞在した先で増えたのはお土産や貰い物の他にTシャツと靴だけだった。

アメリカに行く前日、久しぶりに孝成さんと一つの布団で寝た。夜、流石に暑くてクーラーなしで寝るのを諦めてからは孝成さんの部屋に一人分の布団を持ち込み、寝るときだけスペースを間借りさせてもらうことにしたのだ。孝成さんがベッドで寝返りを打つのを感じながら寝るのはなんとなく落ち着かず、狭くてもその体温を抱いて眠りたいなと、思わずにはいられなかった。
だから狭い布団で体を密着させて寝るのはむしろ快適で、腕の中で大人しく目を閉じている…腕枕はさせてもらえない…孝成さんの額に何度もキスをした。

「孝成さん」

「……ん」

「いってきます」

「今出るわけじゃないだろ」

「はい、でも、明日、言えないから」

「見送り、行こうか」

「嬉しいですけど…」

「寂しくなる?」

「…はい」

窮屈な布団、薄い掛け布団を二枚。
はみ出した足の先が少し冷えて、孝成さんの足に絡ませた。それに答えるみたいに「葉月」と僅かに熱っぽく溢された声を掬い、唇を重ねる。



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