07


孝成さんには監督に提案された日に話していたけれど、香月の言うとおりいまいち分かってないというか、「へぇ、そうなんだ」みたいな緩い感じだった。行くにしても何ヵ月も、と言うわけではない。それこそ自分でも二週間も居られればいいなくらいに思っていたのだから。

だから孝成さんから「葉月、準備は出来た?」と聞かれて驚いたのが、夏休みに入ってすぐだった。

「ふえ?」

「なにその顔、もしかして何もしてないの?」

ぽろりと、口に入れたつもりだったジャガイモの塊が手元に落ちた。慌てて掌で捕まえたそれを素早く口に押し込んで「え?あ、してます…持って行くものも少ないので…」と答えてそれを飲み込んだ。

「まあ、足りないものがあれば向こうでも買えるか」

「はい」

「向こう行ってる間に太らないように」

綺麗に端を持った孝成さんの手を見ながら、言葉の次にそれが心配だよなと思った。その時はじめてバスケのことでの不安はないのだなと気付いた。不思議なことに。

「二週間かあ」

「孝成さんはちゃんとご飯食べてくださいね」

「大丈夫だよ、向こうで俺のこと考えないように」

「無理ですよ、それは」

「余裕ってことだ」

「いや違います、そうじゃなくて…ほら、えっと…」

好きな人のことはいつどこに居ても考えるじゃないですか、と言おうとしてなんとか飲み込んだ。言った途端恥ずかしくなることは分かっていたし、「そうだね」と答えられるのもむず痒くて堪らない。でも何より共感してもらえなかったら悲しすぎる。俺ばかりが好きなことが目に見えてしまう。
孝成さんが俺のことを好きな理由なんて一つも思い当たらない、それでも孝成さんに求めてもらえるのなら理由が何でも構わない。見返りも求めないのに、そのくせ悲しくなるのだから本当に面倒だと自分でも思う。

「俺のこと考えられないくらい必死にやれってこと。俺は葉月のこと応援してるから」

「……」

「十四時間」

「えっ、」

「時差」

「ああ…時差…」

「移動時間が十時間前後」

「……そうですね」

「どうしたって、すぐには会えないんだから、向こうで出来ることだけ考えればいい」

「朝と夜が真逆ってこと、か…そうですよね、電話も出来ないですよね」

なるほど、考える余裕があったとしてもそれこそ“考える”だけで声も聞けないのなら他のことに集中した方がいいのかもしれない。孝成さんが言いたいことは分かったけれど、そんなに簡単なことじゃない。




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