06
「葉月さ、夏休み帰ってくるの?」
「まだわかんねー」
「えー、葉月が帰ってこないならわたしがそっち遊びに行こっかなー」
「はあ?」
「タカナリさんにも会いたいし。泊めてよ」
「無理」
「え〜」
「俺も居るか分かんないし」
「えっ、なに、どっか行くの?」
「んー…アメリカ?」
「え!?留学決まりそうなの?」
「留学じゃなくて、普通に…」
「いいなー!わたしも行っていい?」
「ダメに決まってんだろ」
久しぶりに香月から連絡があったのは、五月の連休が明けてからだった。こっちに来てからもちろん顔は見ていないし、連絡もとりあっていない。思いついたように電話を掛けてきて「元気?」と呑気に問うた声が少し、懐かしかった。
「えー、じゃあいつ帰ってくるの」
「まだ何とも言えない。向こう行かなきゃお盆くらいに実家帰るつもりだし」
「いや行きなよ。行けるなら。相談したの?」
「一応父さんには」
「じゃなくて、いやそれはもちろんだけど」
「は?」
「タカナリさん」
「あー、うん、言ったけど…」
「なに、いってらっしゃーいって感じ?」
「うん」
「あはは!」
電話越し、香月の笑い声が大袈裟に響いた。
「相手にされてないんじゃないの」
「うるせーよ」
「なんかさ、試合の時しかタカナリさんのことまともに見たことなかったから、普段あんなにおっとり?してるの驚いたんだよね。一緒に住んでずっとそういう感じなのってどうなの」
「どうって」
「葉月の方がしっかりしてるようには見えないし誰もそんなこと思わないじゃん」
「ほんとにうるさいな」
「馬鹿にしてるわけじゃないよ、純粋な感想を述べてるだけ」
「それを馬鹿にしてるって言うんだよ。こっちは普通にやれてるし余計なことは心配しなくて良いから」
「ごめんごめん、まあ頑張ってよ」
「ああ」
じゃあなと電話を切り、部屋に雑に貼られたカレンダーをめくった。夏休みまであと二ヶ月、まだまだ遠いなと、思ってからその日を迎えるまではあっという間だった。
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