05
シャワーの音をBGMに、真面目なニュースを見て、落ち着いたはずだったのにお風呂から上がった音と熱を孕んだ気配に、じっとしていられるはずもなく。不自然にお茶をコップに注ぎ、一口飲んでからドキドキしている胸を押さえた。
「葉月」
「、はい」
「眼鏡どこ?」
「眼鏡?着替えの上に置いときましたよ」
「あ、あった、ありがとう」
どうせ曇ってしまって見えないのに。
そう思った次の瞬間にはもうバスルームを出て、「お待たせ」なんて言いながら俺の背中に抱きついてきた。
「た、」
「お茶もらって良い?」
「、はい…って、髪…ちゃんと拭いて出てきてって言ったじゃないですか」
濡れた前髪を後ろに撫で付け、上気した頬を撫でてから首にかかったタオルで髪を拭いた。絶対眼鏡邪魔ですよね、と一旦外してドライヤーをすると髪はふわりと整った。こうしたって何故か盛大に寝癖はつくのだけれど、このお風呂あがりしか見れない髪型も個人的にはとても好きだ。
すっとぼけた孝成さんとも違う、気を抜いた、自然な孝成さんだから。今でもたまに試合中の鋭い眼差しを思い出して恋しくなる時がある。それを言ったらまた「バスケをやめた俺は要らない?」と掘り返されそうで、言葉には出来ないけど。
神経を研ぎ澄ませて瞬きもしなかった目は今、穏やかに瞬きをして緩やかに感情を滲ませる。その目元を親指でやんわりと擦り、「眼鏡いりますか」と問うと、孝成さんは小さく笑って首を横に振った。
「良いよ、今は」
「見えないって、文句言わないんですか」
「見えるこの距離に居てくれるって分かったから」
表情の一つ、声の一つ、俺は全て掬って自分の手の中に閉じ込めておきたい。一つも溢さないで、孝成さんの全て。見える距離、が具体的にどの辺なのかは聞かないで、鼻先を数回擦り合わせてからキスをした。
温度の上がった唇はとろけそうなほど熱くて、オレは夢中で唇を合わせた。テーブルに孝成さんの体をのせ、彼の背中をそこに押さえ付けて深く深くキスをして、しっとりと濡れた肌に掌を滑らせた。
肌を重ねると、気持ち良いのと幸せで胸が一杯なのと、それから少しのもどかしさを抱く。俺は何となくそれを感じながら、孝成さんを抱き上げて布団へ運んだ。
期待したような濡れた瞳に、欲情しきった自分が映っていて、思わず笑いそうになった。「葉月」と、孝成さんの声で名前を呼ばれるのが、こんなにも心地の良いものであると感じながら、その存在を確かめるように肌を合わせた。
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