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「藤代〜ちょっといいかー」

「はい」

「お前夏休み何してる?」

「はい?」

その日、夕方の部活のあと声をかけてきたのは監督だった。バスケ部、と言っても練習やトレーニングを継続する為のもの。それでも試合に出られるならもちろん出たいし、意義のあるものだとは思っている。

「アメリカ行ってきたらどうだ」

「えっ、」

「向こうに知り合いがいるんだが、藤代のこと話したら一回遊びがてら来てみないかって。まあ、留学でもなんでもない、旅行みたいな感じで」

どうだ、と問われ、今の俺にとってそれほど魅力的な誘いはなかった。返事は急がないけれど、将来的にそういうことを考えているなら行っておいて損はないんじゃないかと、監督は肩を軽く叩いた。
そのあとバイトが入っていなくて良かった。なんとなく上の空で、ぼんやりアパートまで帰り、冷蔵庫にあったもので適当に炒め物を作り、明日は土曜日だから午後から部活だな、と確認して炊飯器をセットして風呂をわかした。考え事をしながら洗濯をして、孝成さんは何時に帰ってくるだろうかと携帯を開いた。
連絡はきていない。
マメに連絡する人ではないし、俺だってそういうのは慣れていない。こういう時、何時頃帰ってくるのとか、誰と居るのとか、普通は聞くものなんだろうか。
考えても答えは出ず、相手が孝成さんというだけでイレギュラーな気もしてそれ以上考えるのはやめた。

まだ慣れない部屋で一人過ごすのはなんとなく落ち着かず、もう布団に入ろうかと腰をあげたときだった。「ただいま…」と、疲れきった声が玄関のドアが開くのと同時に聞こえたのは。

「、おかえりなさい」

「……葉月だ…」

「?」

「はぁ〜葉月だ」

「葉月ですよ」

見事に上着を裏表反対に羽織り、靴の紐は緩んだままで、パンツのポケットからは携帯が今にも落ちそうなほど顔を出している。この格好で電車に乗ってきたと思うと、言い表せないようなもどかしさみたいなものを感じた。お酒を飲んでいるわけではないものの、かなり疲れているように見え、それでも思っていたより早い帰りだったことに安堵した。

「お風呂入りますか?今ならまだ追い焚きしなくても温かいと思いますけど」

「うん」

「あー、携帯落ちましたよ」

腰を屈めて脱いだ靴を揃えた孝成さんのズボンからスマホが落ち、踏んでしまう前に拾い上げると、低い位置で視線が絡まった。珍しく気だるげな目にどきりとして、「ありがとう」と携帯を受けとる為に触れた手に熱が籠る。




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