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『ピピ、ピピ…』

朝六時、アラームで目を覚ます。
布団の中で、体を伸ばすと手足が隣の体温に触れた。同じように、アラームで目を覚ましたその人は、俺より一拍早く起き上がり「おはよう」と微笑んだ。相変わらずひどい寝癖をつけて。
それから顔を洗ってセットしておいた炊飯器から今食べる分と、大学に持っていくおにぎりの分を分ける。味噌汁は孝成さんが作ってくれる。お湯を沸かして出汁と具を入れて味噌を溶かす、その作業は彼にとって簡単なんだろう、驚くほどスムーズに、美味しい味噌汁が出来上がる。その横で俺が卵を焼いて、納豆ともずくで朝食を流し込む。
朝はシリアルで済ませていたのに、俺にはしっかり朝飯を食べろと言ってこのメニューが朝の定番になり、孝成さんも一緒に食べてくれるようになった。

歯を磨いて着替えをして、夜のうちに用意していた練習着をおにぎりと一緒に鞄に詰めて七時にはアパートを出る。孝成さんはそれから自分のことをして大学に向かう。
俺は三十分電車に乗り、五分歩いて大学へ。八時からバスケ部の朝練に参加して九時からの一限に間に合うように切り上げて講義に出る。

曜日によるけれど、五時までには部活に出るため体育館へ行く。二時間の練習が終わったら大学の最寄り駅付近の居酒屋で日付が変わる直前までバイト。慣れてしまえばこれが大学生か、といった感じだけど、アパートに帰れるのは日付が変わってからだ。
孝成さんは当たり前のように勉強していて、俺が帰るとすぐに洗濯物を回収して乾燥までまわしてくれる。

バイト先で賄いを食べれば夜はもう風呂に入って翌日の準備をして寝るだけ。孝成さんを布団で待っているつもりが気付けばアラームの音。はっとして横を見ると、機械のようにすっと起き上がる彼が居る。それが、孝成さんと同居を始めてからの生活だ。

「あ、おはよう、ございます…」

「おはよう」

「…何時まで勉強してたんですか」

「何時だったかな…」

季節的にエアコンは必要なく、泊まりに来たときのように二つの布団を並べて二人で寝ている。暑くなってきたらそうはいかないよな、と俺は今から残念に思っているけれど、もうすでにキスも一日一回出来れば良い方になってしまい、心底残念で悲しい気持ちになっている。

「よく寝てたよ、葉月」

「全然知らないですもん」

「疲れてるんだよ」

それは孝成さんだって同じだ。
一緒に生活してみてわかったことはいくつもあって、そのなかでもこの人の勉強量が半端じゃなかったことには驚いた。部屋にいる時間はほぼ勉強、バイトや用事で帰りが遅くなったら明け方近くまで勉強。
その集中力もすごくて、少し声をかけたくらいでは耳に届かない。時間も忘れてしまう。

「顔」

「はい?」

「まだ寝てる」

「えっ、よく眠れたはずなんですけど」

「可愛い。はい、起きて」

可愛い、のあと、俺の頬に軽くキスを落とした孝成さんは、ひょい、と軽く立ち上がって部屋を出た。一緒に住んだら、もっとたくさん孝成さんと過ごせるとか、触れられるとか、浅はかなことを考えていた自分に教えてやりたい。生殺しだぞ、と。
もちろん、俺も疲れているしひどい隈を作ってまで勉強する孝成さんを見ていたら、簡単に触れられないのだけれど。まあそれでも、一度背中を向けられた俺としては、隣にこの人の体温があるだけで嬉しくてたまらない。

「孝成さん」

「ん?」

「味噌汁美味いです」

「良かった」

「ネギ切れてないですけど」

「どうせ噛むからね」

「……確かに。でも豆腐は細かいですよね」

「早く火が通るように」

「なるほど」

「あ、俺今日帰り遅いから」

「えっ、あ、はい。洗濯物回しといていいですか?」

「うん、ありがとう」

跳ねた髪が揺れ、味噌汁の湯気で眼鏡が曇った。いつものことだけど可笑しくて、本当は「用事ですか?」なんて質問をしたかったのに、結局出来ないでいつも通り部屋を出た。



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