17
冬休みの間やることは意外とたくさんあって、孝成さんにはそのあと二回会えただけだった。そのうちの一回は見送りで、ゆっくり話をしたのは一日。うちにきて、正月の残り物を半ば強引に食べさせて、ルームシェアの件に承諾を得た。
俺は何となく夢見心地で、手続きや準備をして迎えた卒業式では完全に浮かれていた。
「大学、寮入るんだっけ?」
「いや、うーん、どうだろう」
「はあ?まだ悩んでんの?もう遅くね」
「決まってもお前には言わねー」
「はあ何で」
「すぐ広まるから」
「人聞き悪いな」
「浜坂さんのこととか。あれ孝成さんにも言われたんだけど」
「えっ、なに、部長?」
「……いや、そう言えばほら、サッカー部の先輩。孝成さんと仲良かった」
「ああ、俺が苦手なタイプの」
「そう。その人からなんか聞いたみたいなこと言ってたけど…そうだよな、加藤あの先輩嫌いって言ってたな」
「嫌いとは言ってないけど関わりたくはない」
「……」
「あれじゃん、面白がってそういうこと吹き込んだんじゃねーの、部長に。葉月に嫉妬でもしてたか…純粋に浜坂さん応援してたのかもしれねーし」
「や、そうじゃなくてさ、あれって夏前だろ。孝成さん卒業してからもあの先輩と連絡とってたんだなと思って」
「そりゃ仲良かったらとるだろ…あ、」
「なに」
「いや…大学…」
「大学?」
「同じ、とこ?とか。や、わかんねーけど」
だとしたらめちゃくちゃ面白くない。
全く笑えないし、なんとなく抱いていた不快感が明らかな“嫌悪”に変わる。あの人絶対孝成さんに気がある、なんて憶測でしかないのになぜか確信めいていて、卒業式の雰囲気が一気に払拭されてしまった。
「まあいいじゃん、葉月も部長と普通に連絡とったり会ったりしてるんだろ?気にすんなって」
一年前とは全く違う気持ちで卒業式を終えると、無性に部室の男臭さが恋しくなり、移動の途中こっそり部室棟へ足を向けた。
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