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もうバスケはしない、きっぱりやめると、ちゃんと本人の口から聞いたし、最初から決められていたことで、決断するときになってもそれが覆らないのは理解した。遊びでバスケは出来ないという気持ちも分かる。俺が憧れたのは孝成さんで、その人がもうコートに立っていなくともそれは変わらない。それでも、やっぱりどこか寂しくて視線が下がった。
「もちろん今でも好きだよ」
「……」
「でも今は葉月を見てるのが一番好き。…そうだな、あと何年…十何年とか、経って、まだ葉月が俺とバスケがしたいって言ってくれたら、してみたいけど」
「そ、んなの…言ってるに決まってるじゃないですか」
「だと嬉しい」
孝成さんはどこまで考えていたんだろう。少なくとも俺より、ずっと先を見ていたと思う。俺はまだ孝成さんが隣にいるのに慣れなくて、 触れるのにだって躊躇ってしまう。当たり前のように眼鏡をかけて出掛けるのを新鮮な気分で見ていたし、セックスだって思い出したら自分がこの人に抱かれたのでは?と思えるほど孝成さんの方が男らしかった。
コンドームやローション、タオルを用意して、体の準備もして、さあどうぞと堂々としていて。セックスが全てでないと分かっていても、もう少し自分がリードを…いや、リードなんて無理か。
この人相手に、俺の方が優位に立とうなんて、絶対無理。
「孝成さん」
「ん?」
「好きです」
「うん、知ってる」
「そういうとこ、ずるいですよね」
「そう?」
「……」
「今夜は早めにお風呂済ませて鍋食べて、初詣行こう」
「……カウントダウン、テレビ見ながらします?」
「うん、いいよ」
その日、俺は孝成さんと年を越した。
二人きりの時間、特別盛り上がったり大笑いしたわけではないのに、俺は楽しくてずっと口は緩んでいたと思う。孝成さんが笑うのを、話すのを、欠伸をするのを、見ているだけでも幸せだった。
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